ニューヨーク Biz! 掲載「HR人事マネジメント Q&A」 第29回 『米国の勤労意識と日系企業の哲学のずれ』
私が渡米してきたのが三十有余年前、それ以前の日本から出向してきた駐在員や現地日本人ら先達の高潔な振る舞いや道徳観、また善良なる日系企業群のおかげで私自身(実際とは別に)周囲に良く見られたり良くして貰ったりとかなりの恩恵を受けてきました。それ故に「ジャパン・アズ・ナンバーワン」とかつて言わしめたほどの隆盛、まぁそこまでは行かずとも日系企業にはこれからも引き続き頑張って貰いたいとの想いは強いです。
しかしそんな変わらぬ想いを抱きつつ米国内日系企業のどこを訪ねても最近は総じて人材難で困っておられ、トップの方々から聞こえて来るのは怨嗟に似た嘆き節。もちろん人手不足や良い候補者が見つからないなどの問題は以前もいや古くから連綿とあるものですが、陰に陽に日系企業を応援している身としてここは恩返しする番とばかり今回の人手不足解決に向けた妙案あるいは人事政策あるいは方向性は如何に?と考察し続けたわけです。
しかしそんな中、ふと今日の動きを見るに例えば最新ニュース記事にて「2023年の昇給予算は20年ぶりの高水準、即ち過去20年間で最も高い水準に達した」「雇用主は差し迫った経済不安にもかかわらず給与に関してかなり積極的な姿勢を維持する予定」「米フォード・モーター社、工員8000人の賃上げを発表。時給で4・33ドル、年換算で9000ドルの引き上げ」、更にこれら動きに拍車をかけるように「全米自動車労働組合、週4日32時間労働を推進。米国はおろか世界中が注目」とのニュースまでもが出てきています。
これらダイナミズムを知るに連れ、かなり踏み込んで考察するに、本来、日系企業が持つ良い部分である雇用維持や勤勉性など重視する哲学というか世界観あるいは方向性といったものが今の米国トレンドからずれてきているのではないか?と思えてきた由。即ち今回の問題はこれまでとは異質なものに感じるとの意。ここに住んでいれば誰もが感じるように、働かずしてお金を得ることに対して人々が罪悪感を持ってるようには見えず、実際のところ額に汗して働いて得たお金でなければ尊くないとの古来よりの考え方もまた逆に重たく思えるほど。そこにハイパーインフレまでもが合わさって、「今は賃金は上がって当然」「本来はもっと上がるべき」と皆が当たり前のように思っている。話は逸れるが食べ物をテイクアウトする時でさえチップを払うのが当然視されるようにもなった。何だか急に常識が、と言うか人々の意識までも大きく変化したように思えてなりません。
次回はこのトレンドを生んでいるダイナミズムを人事的側面から詳らかにしていく予定です。
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企業概況ニュース 掲載 「人事・備忘録」 第十四回 『退職・転職トレンドの終焉 (続き4)』
前回の「人事・備忘録」6月号掲載記事では、昨年流行語となった「大退職時代」を懸念し、人員確保が先とばかりに現職および新規採用従業員の給料額をかなり底上げしたものの、最近は彼、彼女らの職務達成度合に失望し辞めて貰おうと考える雇用主が増え、それに伴い弊社に米国内日系企業から解雇に絡む相談が高い頻度で寄せられていることをお伝えしました。
即ち、昨今の傾向に合わせて給与額を上げるのはやむを得ないとしても、その給与額に見合った職務遂行能力を得られていないと感じる雇用主が多いということであり、また転職して前職以上の給与を得ようとする者には以前の働きぶりのまま高給を得ようとする者もいるため、それなりの職務遂行能力を期待する新たな雇用主との間で齟齬あるいは乖離が生じてしまう悲しい現象が起きている由。
米国労働省労働統計局の発表では、6月の消費者物価指数ならびに失業率はそれぞれ対前年比4.8%/3.6%と出され、第二四半期に入ってからも目立った動きはありません。しかしながら消費者物価指数も失業率も指標として重要ではあるものの、発表者側の思惑によって恣意的に数値を使い分けるため、先行きが読めない今の時代にあっては、これら以外に最新のニュースからも世の中の動きを絶えず知るようにするべきでしょう。
例えば、4月〜7月のレイオフ関連のニュースを取り上げますと、小売りではMcDonald’s、Walmart、Best Buy、Whole Foods、WalgreensやGapなどが、配車サービスでは言わずと知れたLyftやUberが、金融・税理ではErnst&YoungやDeloitte、Morgan Stanley、JPMorgan Chase、Wells Fargoなどが、ITではMicrosoftやLinkedIn、Oracle、Spotify、Metaなどが、エンターテイメントではDisneyやParamount、MTVが、製造では代表的なところでTyson Foodsや3Mなどが相次いで大規模人員整理を既に行ったか、近々行うと発表していますが、これらはあくまで一部に過ぎません。
ここに取り上げた企業は総じて「これから来るリセッションに備えて」を人員削減の主要理由に挙げています。しかし、今なお収益が高いところもかなりあり、在米日系企業に関わる皆さんも一段と厳しい展望にて趨勢を占う必要がありそうです。
ちなみに、同じく労働統計局の6月の発表によれば、今年3月調べの私企業が支払う労働者総報酬平均は$40.79/hour。そのうち金銭報酬部分が$28.76/hour(全体の70.5%)、福利厚生部分が$12.02/hour(29.5%)とのこと。2020年6月時の総報酬平均$35.96/hourと比較すれば、物価高や人件費上昇が経営のかじ取りを難しくさせているのがわかります。
尚、前記事の末尾にて、今回「従業員の解雇」を取り上げると予告しておりましたが前置きだけで紙面を埋めてしまいました。あしからず。次回に続きます。
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ニューヨーク Biz! 掲載「HR人事マネジメント Q&A」 第28回 『雇用維持と採用促進策「部下に刮目(6)』
過去4回に亘って綴ってきた「従業員意識調査(以下:同調査)」は今回で最後となります。これまで、(1)従業員にいつどこで答えて貰うべきか?(2)質問量は?(3)回数または実施する間隔は?(4)設問の仕方は?(5)答えさせ方は?について取り上げましたが、前記事=7月22日号掲載=の(5)の答えさせ方において、従業員をして匿名で答えさせるか実名で答えさせるか或いは所属部署や部門までは分かるようにして答えさせるか?と問いましたが、これについてもう少しお話ししたいことがありました。
ご推察の通り、従業員が少ない会社であるにもかかわらず所属部署部門までも記入させれば彼彼女らは真実を言わない可能性が生じます。翻って、大勢の従業員を抱えた会社なら、設問の内容次第ではそこまで明かさせるべきかもしれません。さもないと懸念や問題または課題がどこの部門どこの上下間で発生しているかが不明なままになってしまうからです。事実、既に幾度も同調査を実施している企業では目的如何によって匿名式か実名式か所属部署部門を使い分けているところは多いです。
そしていよいよ最後は「(6)集計方法」についてです。過去の事例では、紙を用いた調査方法によりたとえ匿名方式であっても集計作業の仕方から誰が答えたかを凡そ推測できる故に従業員は協力的でなかった例などをお知らせしましたが、インターネットを用いた回答方式であってもそこから集計に至る過程で知ろうと思えばいつどのPCからアクセスして回答したかは探り得るので、そのような身元が割れるような懸念を従業員に抱かせることの払拭に努めねばなりません。その匿名性や公正さに努めるが故に企業サイズの大小を問わず同調査を第三者・外部業者に完全に委ねるところが大半なのです。
外部業者は事前に交わした契約条件から、回答された内容の開示は細かな部分まで行うものの、どの従業員が答えたかを特定できるような情報までを企業側に渡すことはありません。この完全匿名な方法である点を調査前に徹底通知し、従業員が如何様に答えようとも秘密は守られ報復は絶対にないこと、従業員の安全を企業側が確約すること、そしてこれらを出来れば従業員ハンドブックに記載してある報復禁止や内部通報・内部告発の項を添えることで従業員に安心して全て吐き出すように導くのが得策です。
そしてなんと、この従業員意識調査はその報告書とそれへ執った企業側の行動や措置の記録を積み増してていけば結果として御社が雇用関連訴訟に巻き込まれることを防ぐ有用な盾(証拠資料)ともなるのです。
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ニューヨーク Biz! 掲載「HR人事マネジメント Q&A」 第27回 『雇用維持と採用促進策「部下に刮目(5)』
過去3回に亘って綴ってきた「従業員意識調査(以下:同調査)」ですが今回も続けて取り上げます。唯、その前にここで再度念押ししておきますと、会社として上司として部下たちが如何なる懸案や不満を抱えているかを知り、転職の意思を思い留まらせ、やる気を促すよう施策を講じるには、実際に彼彼女たちの声を聞くべきであることは言うまでもありません。唯、彼彼女たちが長い勤務経験から「何をしても会社の体制は変わらない」「言ってもどうせ良くならないだろう」、あるいは「今回の調査も見映えと社外向けアピールが目的」など既に諦め半分の境地にいるならば、上司が如何に質そうともそう易々と本音や意見を言わないだろうということです。
それ故これまでお伝えしてきたように、同調査を行うことを以って会社が本気で改善に乗り出そうとの姿勢それに従業員の言葉にきちんと耳を傾けようとの真摯な面持ちを全面に打ち出す必要があります。もちろん、調査結果で出た問題全てを解決すべきかはさておき、最初から腰が引けているのが丸わかりな状態で臨んだならば従業員たちの協力を得ることも叶わなくなるでしょう。本題に入ります。
(5)答えさせ方は?:これは何も難しいことを説きたいのではなく、要は、完全匿名で答えさせるのか、部署部門までは分かるように答えさせるのか、あるいは逆に実名を書かせた上で答えさせるのか、だけです。
僅か十数年前までは質問用紙を配って答えさせていたのが今では大半の会社がインターネットを用いた回答方式に切り替えており、ここでようやく従業員たちに「匿名記入」を信じて貰えるようになりました。というのも以前の紙を使った調査時に、質問用紙に番号が振ってあったり書いた文字の癖から本人を判別するなどの行いもあったようで、なかなか信じては貰えないどころか懐疑的ですらあったからです。
既に「(1)従業員にいつどこで同調査に答えて貰うべきか?」のところでもお伝えしていますが、給金が発生している就労中に答えさせるべきであり、各々の従業員が自分専用のPCを持つ会社ならばそこからアクセスさせれば良いですが、専用PCを持たない部門の従業員のためには調査専用PCを空いているスペースに調査期間限定で何台か設置することもするべきです。
ニューヨーク Biz! 掲載「HR人事マネジメント Q&A」 第26回 『雇用維持と採用促進策「部下に刮目(4)』
今回も前回=5月27日号掲載=の記事に続きますが、企業が「従業員意識調査(以下:同調査)」を実施するには「注意と工夫」が必要であり、前回の記事では事前にクリアにしておくべきこととして(1)従業員にいつどこで同調査に答えて貰うべきか?(2)同調査の質問量は?(3)同調査の回数または実施する間隔は?を挙げ、とりわけ(3)の考察部分が重要だと説きました。そして今回は続く「(4)『設問』の仕方」について取り上げます。
(4)「設問」の仕方は?:今、管理職である皆さん方が部下たちについて、最も知りたい彼彼女たちの胸中は何処にあるでしょうか。
例えば、皆さん自身が彼彼女たちへの自社の待遇がそれほど良くないと分かっており、部下たちは給与額やベネフィットの内容を一番問題視している筈と思っているのか。あるいは、与えている職務が単調な作業や繰り返しばかりで彼彼女たちの向上心や愛社精神を育めずにいると感じているのか。
それとも、前々回=4月22日号掲載=に取り上げた「ワーク/ライフバランス」、すなわち在宅勤務の割合および働き方自体に不満があるのだろうと踏んでいるのか。それに常に接する同僚たちを好きになれず仕事に集中できないことに不満ありと感じるのか、はたまた、日頃から上司の業務手順やゴリ押し・独断決定に苦言を呈したり不満を漏らすことも多く、彼彼女たちに対する敬意が足りないと感じているのか、合わせて管理職レベルへの厚待遇(と一方的に思っている)が目立ち、対する彼彼女たち非管理職レベルの扱いが不公平…集約すれば「尊敬できない上司」…だと感じていると推し量るのか。
それよりなにより皆さんが根本的に知りたいこととして、彼彼女たちが職務量を多いと考えるのか少ないと考えるのか、働きたい(通勤したい)オフィス環境だと誇っているか、延いては会社自体を好きでいてくれているか、までも挙げられます。
以上、とりあえず思いつくことを列記してみましたが、これら上述の中からまたはこれら以外から、先ずは真っ先に知りたいことの焦点を絞り、次いでそこから細分化していく形で設問段階に入ること、そして個々の質問自体もできるだけイエスかノーかまたは5段階基準で簡単に選べるていにするのが肝要です。次回は「(5)答えさせ方」を取り上げます。
ニューヨーク Biz! 掲載「HR人事マネジメント Q&A」 第25回 『雇用維持と採用促進策「部下に刮目(3)』
前回=4月22日号掲載=の記事にて、大手企業や有名企業では「従業員意識調査(以下:同調査)」を活用しており、その中でも一部企業は頻繁に質問内容を変えて実施するほどだが、主な理由は部下達が如何なる懸案や不満を抱えているかを最も正確に知る手段である為。翻って、小中規模の企業は実施に二の足を踏みがち、その訳は同調査に協力したからといって従業員たちに過度に期待されては困るからというもの。それ故、実施には注意と工夫が伴わねばならないと締めくくりました。
今回は前回の続きとして、同調査を実施する上での「注意と工夫」を説きたいと思います。同調査を行う前に企業側がクリアにしておくべき事として;
(1)従業員にいつどこで答えて貰うか?:これはもちろん、従業員には真摯に回答して貰わねばせっかくの同調査が無駄になることから、宿題として家に持ち帰らせずに会社で行うべきです。即ち給金が発生している就労中に答えさせてこそ真面目に取り組む(答える)と考えるべきですし、賃金が出ない就労時間外に家でさせたところで雇用主側の「ケチ」さを見透かされ、呆れられるか或いはその浅ましさから逆に人心が離れていく原因にすらなるかもしれません。
(2)どれくらいの量の質問を設けて良いか・設けるべきか?:特に制約はありませんが50問までに抑えるべきでしょう。それ以上の質問を設けても集中力が続かず最大の効果が得られなくなってしまうためですが、似たケースにDMVのドライビングテストが挙げられましょうか。また、50問以下ならば1時間(の賃金)で済むはずです。
(3)回数または実施する間隔は?:これがけっこう重要な考察ポイントなのですが、先に述べた通り「従業員たちに過度な期待をされては困る」は、従業員側が同調査の実施を通常行う日常的イベントとは捉えず非日常、即ち非常時イベントと受け止めることから過度な期待もしてしまうわけです。従って定間隔で行うことが望ましいですし、たとえ初めての実施であっても、事前に「よりよい会社にするべく今後もこのような調査を定期的に行っていく予定でいる」ことをアピールしておいた方が良いかもしれません。但し、このようなアピールをするかどうかは真剣に検討されるべき。何故なら皆さんも経験があるでしょうが、ディーラーや航空会社から頻繁に送られてくるアンケ―トの大半にはうんざり気味。従って敢えて「1回こっきり」とするのか「定期的実施」をアピールするのか、また係る「強調度合い」は、全てその時々に考えるべきでしょう。
続く「(4)『設問』の仕方」および「(5)答えさせ方」、それと調査後の雇用主側の振る舞いや従業員側へのフィードバックなどについては次回に取り上げたいと思います。
企業概況ニュース 掲載 「人事・備忘録」 第十三回 『退職・転職トレンドの終焉 (続き3)』
前回の「人事・備忘録」4月号掲載記事は、長い時間をかけて良好な関係を育んで来た筈の部下が、ある日突然辞めると言って来た時を想定し、対策を練り、準備も怠らず、また先手を打つべきと締めくくりました。さもないと貴重な人員が失われることになり、経営にまで打撃を与えることになりかねません。
米国労働省の一機関である労働統計局の発表では、1〜4月の消費者物価指数は対前年比でそれぞれ6.4%、6.0%、5.0%、4.9%と少しずつ抑制する方向に動いており、対する1〜4月の失業率の方は3.4%、3.6%、3.4%、3.4%と今年に入ってからも目立った変化はありません。一方で、全米ジョブオープニング数は1月以来少しずつ減って来ており、実際に雇用される者の数も(依然、多くはあるが)僅かに下がってきています。そんな中、IT業界では昨年来の大型人員削減の動きが止みそうになく、今年に入り実施された技術系就労者の解雇数は、現時点で昨年全ての技術系の解雇数を早くも上回り、更に5月時点で今後のレイオフ計画を公表する企業がまだまだ出て来る始末。(但し、毎月それらを少し上回る程度の雇用数があるため失業率に変化が現れにくい)
また最新の給与情報では、大方の調査にて雇用主のおよそ半数以上が「昇給率は3%を超えるだろう」と回答するものの、4%台には達せず、今年全体の平均昇給率は昨年より低くなる見通し。加えて5%以上の昇給を考えている企業は現時点でおおよそ10社に1社程度しかなく、時が経つに連れ、今年度の予測値が少しずつ下がって行く感がある。従ってこのまま進めば、たとえ昇給があったとしても多くの人の給与額は物価の上昇に追い付けそうにありません。
他方で、昨年を指す流行語「大退職時代」との言葉に不安を覚え、現社員の給料をかなり底上げした企業や、何をさておいても人員確保とばかり積極的に新規採用した企業の多くに早くも弊害が出始めています。
IT企業大手は、これまで潤沢な予算にて優秀な人材を先ず以て多めに採用し、後になって余剰とわかれば辞めて貰うことを繰り返す傾向にあったため、同業界のレイオフのニュースばかりが目立つ。このことを差し置いてみても、最近採用した従業員の職務遂行能力に疑問を感じ、辞めて貰おうと考える企業が多いようで、斯くいう弊社にも日系企業から解雇に絡んだ問合せが増えているのが実情です。
次回はその「従業員の解雇」に関する一切ならびに注意事項を扱いたく、予定します。
ニューヨーク Biz! 掲載「HR人事マネジメント Q&A」 第24回 『雇用維持と採用促進策「部下に刮目(2) 』
前回=3月25日号掲載=の記事では、部下も一個の人間である限りお金も欲しければキャリアも積みたい、更には居心地よい(だけの)今の職場のままで良いのかとも煩悶している筈、それ故、上下間の信頼関係がたとえ盤石に違いないと思ってもそれが単なる自身の思い込みではないのかと、現状を機に今こそ上司のあなた自身が自省するべきと締めくくりました。
もちろん自省段階で収めず、上司として、部下達が如何なる懸案や不満を抱えているかを知り、彼彼女達の(内々の)転職活動を思い留まらせるよう施策を講じるまでに歩を進める方が上策ではあります。
このような場面での解明策の一つとして企業間では「従業員意識調査」なるものが知られており、事実、米系有名企業や大手日系企業ではこぞって取り入れられているのが実情です。こちら米国ではEmployee Climate SurveyあるいはEmployee Satisfaction SurveyやEmployee Engagement Surveyと呼ばれ、日本だと「従業員アンケート」や「従業員満足度調査」との言葉が当てはまりましょうか。この「従業員意識調査」は1回の実施で完遂する類ではなく、米系企業などは従業員が抱える問題や悩みを最も妥当に且つ正確に知る手段として毎年のように焦点を変え設問内容を変えて実施しているほどです。
例を紹介しますと、「転職を考える理由」の調査では、或る会社側が予測した上位二つは「より良い福利厚生プラン(28%)」「より良いキャリアアップの機会(28%)」でしたが、会社側の予想に反して従業員側の上位二つが「より良い報酬(53%)」と「節度あるワークライフバランス(42%)」でした。
また「大退職時代に多くの同僚が離職したあとに残った社員」を対象にした或る広域調査では、従業員の55%が「自身の給与額を疑問視」・52%が「より多くの職務と責任を抱えることになった」と回答、これ以外に「職務を遂行するのに苦労している(30%)」「孤独・孤立を感じる(28%)」「組織への忠誠心が低下(27%)」でした。
会社上層部の思い込みと従業員側の悩みが異なると分かることこそが同調査を行う意義または価値ともいえますが、果たして上司である皆さんの思い込みは的を射ているでしょうか。そしてここ数年のパンデミックで暮らし向きや働き方に対する考え方が大きく変わってしまったものの、これが収まってきた今は部下の考え方に如何な変化が現れているかを新たに調査してみるべき時だとも申しておきます。
唯、同調査がこれほど認知されているならば小中規模の企業にまで広く普及しているだろうと思われがちですが実際はそうなっておらず、その最大の原因は意識調査に答えたからには効果がある筈と従業員側が思い込むのを厄介視する会社側が実施に及び腰な為であり、意識調査の導入が延いては「従業員側の悩みが解決する」「要望が通る」ものと過度に期待されては困るというもの。それ故、実施には注意と工夫が伴わねばなりません。
企業概況ニュース 掲載 「人事・備忘録」 第十二回 『退職・転職トレンドの終焉 (続き2)』
「人事・備忘録」の今年1月号掲載記事は、暫く加熱していた昇給スピードが今後冷却段階へと移る筈との予想を述べて締めくくりましたが、これに絡んで労使いずれも興味をそそる記事を3月14日BLS(労働統計局)が「今年の昇給?…予想するより低いかもしれません」と題し給与調査企業の見解を引用して出しました。
「企業は依然として従業員の給与額を大きく上げ続けており、調査対象企業の半数以上が3%以上の昇給を予定していると答えるも、但し5%を超える大幅な賃上げを行うと回答した企業はほとんどなく、これは今まで5%以上だった昇給平均が4%〜5%の範囲内にまで下がることを意味する」です。
しかしながら概して米系企業は給料が高く、対する日系企業は長い年月をかけてある程度まで追いついてきたものの特定のポジションを除いて未だその水準にまで達していないことから、この鈍化してきた昇給速度あるいは昇給度合いの情報を鵜呑みにして倣うべきではありません。これは何も給与高の良し悪しを衝いているのではなく、給料値が低かろうとも現に今も多くの人達が日系企業で就労している事実から某か別の魅力があるにちがいなく、自社が他社と給与額で競えないと思うのであれば今ある誇れる部分を現従業員ならびに今から雇う者達に対する「売り込むべきポイント」として一層の磨きをかけるべきでしょう。
それはさておき、昇給スピードが鈍化して来たことは、全米ジョブオープニング数が少しずつ減り、また大手企業群による大規模な人員削減策によって失業率が少しずつ上がり始めたこと、加えて米経済が景気後退局面に入るのを見据えて多くの企業たちが雇用すべきポジションとオファー給与額の再検討に入ったことから全てが抑制の方向に転じた結果に他なりません。
加えて、消費者物価指数の方は、昨年の常時8%超え、中でも6月が9%超えだったことと比べるとまだ高くはありますが、12月が前年比6.5%、1月が6.4%、2月が6.0%と最近は落ち着いてきた感があり、暮らし向きを心配する人々および彼・彼女達の給料をどうしようかと気を揉んでいた企業をして少しは安堵したことでしょう。
但し、天塩にかけて育てて来た(と思っている)筈の従業員が或る日突然辞めると言って来た時を想定し、その場にて彼、彼女達を如何に押し留めるかどうやって翻意させるかを、今から幾つもの対策を練って準備はしておくべき、延いては先手を打つべきではあります。
ニューヨーク Biz! 掲載「HR人事マネジメント Q&A」 第23回 『雇用維持と採用促進策「部下に刮目(1) 』
前回=2月25日号掲載=の記事では、働き手側の意識が変わった今、入社間もない時期ですら簡単に辞めてしまう風潮ゆえに企業はやはり採用時の面接を重要視せざるを得ないと締めくくり、反面、面接重視のあまり自社を現実以上に高く売り込んで失望されればそれこそ元も子もないとも付け加えました。
ところで皆さんご存知のように、3月2週目後半から米国や欧州の諸銀行の取引停止や破綻を報じるニュースが流れ始めました。予兆として昨年末には既に今夏以降リセッションが始まると報じられてはいたのですが、中には景気後退の間を置かずして一気に大不況が訪れると持論を展開するアナリストまでおり、市井の多くの人々を不安に陥れています。
一方で時同じく3月2週目終わりの各州統計の結果から経済評論家たちは、新年明けにレイオフを発表した大手企業が多くあるにもかかわらずそれら大型削減が労働市場に然したる影響を与えず今も失業率が非常に低いまま推移しており、人手不足が依然として相当逼迫した状態にあることを強調しています。
幾多もの米民間統計結果では生涯を通じた転職回数が平均5~7回と出ており、これは米労働統計局が「平均的労働者は50歳迄に10以上の異なる仕事に就くが、この数は今後更に増加する見込み」と調査結果を発表していることからも決して誇張されたものではないのですが、これは即ち、皆さんの部下達の転職活動は今後も活発に行われ、そこそこ多くの者が新たな就職先からオファーを貰い、すぐに新しい仕事を見つけるであろうことを意味しています。
この簡単に辞めていく原因を考えてみたのですが、先ず、少し前の日本的思考「生涯一企業に勤め続ける」との考え、これは米国はおろか日本でも今や通用しないことは皆わかっている筈ですが改めて今を以って捨て去るべきです。「まぁ世間はそうだろうが、私の部下はそうじゃない」と思い込みたいのは理解しますが、だからこそ敢えて念押ししたのです。何故なら、そのように思うことこそが隙あるいは油断を生むからです。
もう一度言います。信頼関係が醸成された上下関係は簡単には崩れないと信じたいでしょうが部下も一個の人間、生活もすればお金も欲しければキャリアも積みたいと思っている筈。また今の居心地よい安寧とした惰性のままで果たして良いのかとも自問している筈。当たり前のことですが、部下は仕事に満足しているだろうか? お金は? やりがいは? と常々注視する姿勢こそが彼ら彼女らの秘めたる転職活動を阻止し得るのです。次回はこの現状を省みて考えれば皆さんの企業にもチャンスがあることを考察してみます。