企業概況ニュース掲載 「人事・備忘録」 第二回 『Salary History Bans : 給与履歴照会制限法にまつわる話』
ニューヨーク Biz! 掲載「HR人事マネジメント Q&A」 第3回 『在宅勤務でエグゼンプトのメリット失せ問題浮上』
前回=6月26日号掲載=に続き、今回は「ミスクラシフィケーション問題がただいま浮上している自宅勤務継続問題とリンクし、如何に強く露呈するに至ったか」を取り上げます。
ミスクラシフィケーション問題は、何も今に始まった問題ではなく、前回のコラムでも取り上げましたが、20年前から連綿としかも全ての州で企業の大小を問わずに起きてきております。理由は言わずもがな、企業側が「残業代を計算するのが面倒だから」「残業代を支払いたくないから」に尽きるのですが、但し、この問題が露わになるのは、例えば、能力不足や不品行による警告書を発した時、解雇を告げた時など、決まって労使の関係が悪化した時です。
では何故に労使関係が良好な時には現れないのか─。それはエグゼンプトにカテゴライズされた従業員はノンエグゼンプト従業員のように時間に左右されないからです。ノンエグゼンプトにカテゴライズされた従業員については、企業は、残業代支払いから免れることが法律上できない為、自ずと就労に係る時間管理を厳しくせざるを得ません。一方のエグゼンプト従業員は、時間による給与支払いではなく能力による給与支払いゆえ、例えば、遅い出勤・長いランチ時間・早い退社…、延いては(職務上不要であれば)出社すらしなくて良いのです。従って、本来であればノンエグゼンプトにカテゴライズされるべき従業員が雇用主をしてエグゼンプトにカテゴライズされたとしても、従業員側にも時間管理の窮屈さから逃れ、就労中でも比較的自由に振る舞えるとのメリットが生まれるからです。残業をしたのに残業代が支払われない問題はあるとしても、日常ほとんど残業をしていないならばエグゼンプトの長所だけを享受できることにもなり得ます。このような企業の光景は米系日系問わず今尚常態化しており、小規模企業で家族的な人事管理を好む所長さんがおられる企業ならば猶更のことと捉えても良いかもしれません。
原因は、日本から出向して来られた親会社の駐在員がFLSA(Fair Labor Standard Act)─公正労働基準法と呼ばれる法律─を理解把握していない事から起こっており、且つ「全従業員をマネジャーの位にしておけば残業代支払いは不要」との日本的発想がそうさせている原因であることも明白です。
それが昨年のパンデミック発生により、何ら準備もできないまま従業員をして在宅勤務に移行せざるを得なくなった今日、上司はこれまでのように従業員の仕事ぶりを間近で見られなくなってしまい、職務遂行具合と相俟ってマイクロマネジメントがちで時間管理も厳しくせざるを得なくなるに至る。そうなれば当然乍らエグゼンプトとしてカテゴライズされた従業員─実際はノンエグゼンプト従業員であるべき─達は、エグゼンプトのメリットが失せてしまい、「では、間違っているクラシフィケーションを是正せよ」と迫るは必定ということになり、斯くして、良い関係であった時には労使双方がうまく利していたミスクラシフィケーションの問題が危うい形で露呈することになるわけです。
ニューヨーク Biz! 掲載「HR人事マネジメント Q&A」 第2回 『不明瞭な従業員区分が企業に及ぼす恒久的インパクト』
前回=5月22日号掲載=に続き、今回もワーク・スケジュールとワークスタイルを取り上げます。
ワーク・スケジュールはワークスタイルと密接に関わっている、即ちこれ、「働き方」「働かせ方」問題であり、「働かせ方」の方法として前回では、1日8時間・週5日勤務から1日10時間・週4日勤務に変更するなど、とりあえず今の時期に普段と異なる就労勤務時間を設定することで「働き方」において自宅勤務を希望する従業員からも支持され易く、且つ転職を防ぐ手段ともなり得るAlternative work schedules(代替勤務スケジュール)やMake Up Time制(勤務時間補填制度)を取り上げました。
多くの企業の関心が集中する従業員の自宅勤務継続問題と、Alternative work schedulesやMake Up Time制のような手法の導入に絡み、人事管理上もっとも肝心且つ踏まえておくべきことはEmployee Exemption Status(従業員区分)です。これについてはここ米国でおよそ20年前から浮上してきており、通称「FLSA問題」とも言われています。
FLSAとはFair Labor Standards Actの略であり、所謂、公正労働基準法と呼ばれる法律ですが、これは1929年から始まった世界大恐慌をうけ、38年に、おびただしい数の失業者に職を提供するべく、●最低賃金を設定●残業手当の発生基準を設定●エグゼンプト/ノンエグゼンプトの区分を設定し、施行したとの経緯があります。つまり、企業が一人でも多くの者を雇用するよう最低賃金を設定することと合わせて1・5倍になる残業基準を設けつつ、その基準に該当する職務とそうでない職務を区分けしたわけです。単語の意味からもお分かりのように、エグゼンプト=残業代を免除される従業員、ノンエグゼンプト=残業代の対象となる従業員、です。
問題は、この区分けを謳ったFLSAの基準値が明瞭でなかった為、労使双方いずれ側もが都合の良いように解釈し得たことです。例えば「当該職務は、通常、自由な裁量と独自の判断に基づいて仕事をする」や「当該職務は、通常、重役や経営陣の手足となって働く」は、そうだともそうでないとも取れますし、また「従業員が特別なトレーニング、経験、知識を必要とするような特殊な、もしくは技術的な職務である」と問われれば、該当ポジションの価値を高めるべく当事者同士の労使双方が共に「そうだ、当該ポジションは特別な経験や知識が必要だ!」と敢えて声高に唱えてしまいがちですが、第三者から見るまでもなく冷静に顧みれば、区分けが間違っていることが多いのは周知の事実です。
このような背景ならびに企業側が残業代を支払いたくないとの経営上の永遠の理由から、実際は残業代が免除されないノンエグゼンプトなのに残業代が免除されるエグゼンプトに区分してしまうとのMisclassification問題が連綿と起こることになったのです。
ではこのMisclassification問題がただいま浮上している自宅勤務継続問題とリンクし、如何に強く露呈するに至ったかですが、これについては次号で取り上げたいと思います。
企業概況ニュース掲載 「人事・備忘録」 第一回 『Ban the Box(法)』
これまで当コラムでは、政府が計画する施策や動きを加味しつつ「米国人事労務管理 最前線」と銘打ち、来る将来の人事政策などを展望して来ました。今後は少し方向性を変え、実際に人事を担われる皆様に向けて、人事管理に主旨を置き、分かりやすく説明して参りたいと思います。
Ban the Box(法)とは
コラム一回目は、Ban the Box(法)を取り上げたいと思います。同法は、2001年の米国同時多発テロ以降、採用前の身元調査を行う雇用主が増えてきたところにリーマンショック後の高い失業率が重なり、とりわけ薬物に絡む犯罪歴がある大勢の者が、そこで露見する前科(Criminal record)のせいで仕事を見つけるのが困難な事態を打開するために生まれました。Ban the Box(法)はそれぞれの単語が示す通り、Box(質問欄)をBan(禁止)するとの意味であり、これは企業側が用意する雇用申請用紙に、以前ならば存在した犯罪(有罪)歴を問う欄を設けることを禁じる法律です。
FBI連邦捜査局の推定によれば、過去20年間で25億回以上の逮捕が行われており、FBIマスター犯罪データベースには実に7770万人の犯罪歴を有する者——米国内成人の実に3人に1人弱——が登録されています。これはゼロトレランス政策(行為の大小に関わらず厳罰を申し渡す条例)によるところも大きいのですが、対するEEOC(雇用機会均等委員会)側が出すガイドラインでは、逮捕の事実のみが、違法行為の証拠あるいは採用対象から除外する根拠には必ずしも値しないと明言。さらに求職者に有罪歴がある場合、雇用主はその行為の深刻度や罪を犯してからどれだけの時間が経っているか、求人中の職務内容との関連性(ならびに職務に与える影響度)を検証しなければならないとしています。但し、目的は仕事を見つけるのが困難な事態を打開することに尽きますが、Ban the Box(法)は各州および各自治体によって施行しているところもあればそうでないところもあります。今年1月時点では36の州と150を超える地方自治体が同法を施行したと報告されていますが、法律の呼称は同じでも、規制や条件がそれぞれ異なります。つまり、前述のように「雇用申請用紙上に犯罪(有罪)歴を問う質問欄を設けることを禁じる」とするところ、「ジョブオファーする前に犯罪歴チェックをしてはいけない」とするところ、「第一面接時に過去に有罪判決を受けたことがあるか? と問うことを禁止する」としているところ、など細かく紐解けばそれこそ千差万別といった感があります。但しニューヨーク市を筆頭に「条件付採用内定通知書(conditional job offer)を渡す前に犯罪歴を調査してはいけない」とするところが、やはり多いように思います。
オンライン採用面接の落とし穴
問題は、企業も以前だったら各州各自治体で同法が法制化されているかどうかを慎重に確認したのですが、最近はオンライン会議システムを用いて手軽に面接を行うことが日常となったため、見落とされるケースがあるようです。例えば、同法が施行されていない州内にある企業が、同法が施行されている州内の求職者の面接をします。そこでオファーを出し、同法が施行されていない州に呼び寄せるならまだしも、最近は、テレワーキングで職務遂行する条件で職をオファーする企業も多くなっており、即ち、同法が施行されている州に留まったまま自宅勤務を行う条件を提示するにもかかわらず犯罪歴を問うてしまったならば、不法行為になることもあるので、重々注意を払う必要があります。
このような致命的ともいえるミスを防ぐためにも、何をさしおいても雇用申請書から犯罪歴を問う項目・ボックスを削除しておくこと、求職者が雇用申請書や履歴書の提出時および面接時に——何次面接の段階であろうとも——犯罪歴やそれに類する質問をしないこと、を徹底しましょう。これは勿論、人事担当者のみならず、各部署にも徹底周知しておく必要があるのは言うまでもありません。尚、前述したように、Ban the Box(法)適用州であろうとも、職のオファーを出す時点で身上調査を行うことは可能ですので、企業は予め、募集から雇用に至るまでの採用手順を確立し、コロナ禍終息後の来る人手不足に備えておきましょう。
ニューヨーク Biz! 掲載「HR人事マネジメント Q&A」 第1回 『代替勤務スケジュール導入には残業代に関する法律の確認を』
今回、その「HR人事マネジメント Q&A」の初回として取り上げるのは、多くの企業から常に問い合わせを頂き、その質問数も相当数に上る、ワーク・スケジュールあるいはワークスタイル…両者は密接に関わっていますが…これ即ち、働かせ方・働き方と言い換えても良く、そのうちのワーク・スケジュールについてを数回シリーズで取り上げます。
雇用主側からは、「コロナ禍で仕事が減ったので、従業員の就労時間を40時間から30時間または30時間未満としたい」「自宅勤務を許可したは良いが、託せる職務に限りがある」「仕事量が減ったので、そのポジションを廃止したいが、ポストコロナ禍では人手不足になることを見据えれば、解雇せずに就労時間数を減らすなどしてそのポジションを温存しておきたい」「従業員が出勤を嫌がるので、1日8時間・週5日勤務から1日10時間・週4日勤務に変更することも考えたい」との相談が寄せられる一方で、雇用主側が懸念する従業員側の想いには、「優秀な従業員が自宅勤務を機に遠方に引っ越したいと言ってくる」「自宅勤務と出勤の割合は今のままの6対4を維持すべきだと、これ以上の出勤を嫌がる」「出勤を無理強いすれば自宅勤務に慣れた従業員の中から転職を考える者も多く出てくるだろう」「自宅勤務を認めるのならば、Make Up Time制も柔軟に認めるべきだ」などが挙げられます。
これらのうち、「1日8時間・週5日勤務から1日10時間・週4日勤務への変更」を模索されるに当たり、先ず、このような異なる就労形態を設定することをAlternative work schedules(代替勤務スケジュール)と呼びますが、これは何も最近の流行りではなく、たとえば、1994年1月にカリフォルニア州ノースリッジで地震が発生し、ロサンゼルスダウンタウンへ向かう幹線フリーウェイが分断されて通勤が困難になった時なども、自宅勤務と共に、1日10時間・週4日勤務形態が推奨されたこともあります。
このAlternative work schedulesは、週休3日となるわけですから、仮に、大半の従業員が好み且つ適切な方法で導入されれば従業員をよりやる気にさせるカンフル剤ともなりますが、大半の州が連邦法に則って週40時間以上働いた場合に超過分に1.5倍の賃金を払うとしている中、少数の州では1日8時間(または10時間・12時間)を超えた場合でも1.5倍の賃金を払うなど独自の州法を備えていたり、ワーク・スケジュールの変更には対象従業員による投票を条件付けしている州もあったりと、すんなり変更できるわけではありません。従って、検討される前に、一先ず、御社が所在する州の残業代に関する法律を確認してみてください。
「新型コロナウイルス禍におけるアメリカの救済措置&失業保険」の記事の「休職制度」のパート
2021年5月|Lighthouse サンディエゴ 5月1日号|http://magazine.us-lighthouse.com/publication/?i=658682&ver=html5&p=24
「新型コロナウイルス禍におけるアメリカの救済措置&失業保険」の記事の「休職制度」のパート
2021年5月|Lighthouse ロサンゼルス 5月1日号|http://magazine.us-lighthouse.com/publication/?i=658440&ver=html5&p=34
ニューヨーク Biz! 掲載「マネジメントへの手紙」 マネジメント・コンサルタント/プロフェッショナル・コーチの視点から 第48回 『従業員のワクチン接種方針(2)』
前回=3月20日号掲載=に続き、オフィス再開プランの再検討に向けた米国内企業の実情をお伝えします。
前回は、EEOC(雇用機会均等委員会)が「接種の義務化は可能」との見解を出してはいるものの、コロナ・ワクチン接種を望まない従業員からの反発や訴訟リスク等を考慮すると、ビジネス上の明確な理由がないのであれば少なくとも現時点では任意レベルに留めておくのが無難であり、接種を推奨するのであれば奨励金制度など何かしらのインセンティブをつけることも考えられたら良いかもしれません。と寄稿しました。
これについて多くの問い合わせがあった為、今回も前回の記事を更に細かく解説したいと思いますが、先ず分けてお考え頂きたいのは、その従業員の職務が会社または工場や倉庫でしか遂行できない仕事なのか否かという点です。前者であれば、企業は大抵の場合、従業員にワクチン接種を要求する権利を元から有する為、特定の障害や宗教上の理由などの例外を除いて、ワクチン接種にインセンティブを提供する必要はないと考えますし、また、このような事態に一々インセンティブを提供すれば、これを当たり前と捉える風潮が強まる可能性もあることから、労務管理上、好ましい方向に進まないことも考えられます。対する後者の、従業員の職務が自宅から継続して行い得る場合、従業員がオフィスに来るよう要求されない限りはワクチン接種を推奨すること自体が不必要かもしれません。
次いで提供するインセンティブについて。上述した如く、出社を求めるビジネス上の明確な理由があるのであれば検討されて良いと言えますが、但しインセンティブとは言っても、それはあくまでもワクチン接種に費やす時間相当の2時間あるいはワクチン接種後の体調をも慮っての4時間これら1日以内の有給無給いずれかの短い休職時間を提供することを意味し、これら以外の何かを奨励したり報奨したりする必要はないということです。ワクチン接種とその後の体調の為にこれら以上の別種のインセンティブを出せば、それこそワクチン接種を断る従業員との一貫性の面で不公平感が生じる事にもなりかねないからです。
これに絡んでは、NY州ほか幾つかの州は、ワクチン接種する従業員に対して、無給(または有給)いずれかの休職を認めなければならない、というルールを策定し出してきています。
以上のことを合わせて考慮すれば、仮にコロナ・ワクチン接種を行う従業員に有給休職時間を提供する際は、既存の有給休暇や傷病休暇に数時間分を多く付与する方法ではなく、例えば、期限付き且つワクチン接種の証拠を提出することを条件にした、コロナ・ワクチン接種向けの新方針を設け、且つ、申請用紙の方も既存のものを流用せずに新たに作られるべきでしょう。
ニューヨーク便利帳(2019.12.17) 掲載 「アメリカで働く」
アメリカで働くうえで知っておいた方がよいことは多い。
日米のビジネス慣習の違いについて理解しておくことで、仕事をスムーズに進めることが可能になり、また最低限の雇用法・労働法・雇用慣習について知っておけば、健全な職場環境を維持できるうえに、小さいと思っていた問題が訴訟を含む大きな問題に発展するリスクから自身と会社を守ることが可能になる。
いずれにしても、「知らなかった」は通用しないということを肝に銘じておくべきだ。ここでは代表的な雇用法・労働法とハラスメント/セクシャルハラスメントについての概要を解説する。
※詳しくは専門家に確認を
<代表的な雇用法・労働法>
アメリカには、職場での(厳密には雇用上の決定に際しての)差別を禁止するさまざまな法律が存在する。国の成り立ち自体が移民国家(多民族国家)であり、公平を重んじるアメリカならではといえるが、法律の対象は非常に多岐にわたる。
また、直接的には差別にあたらないとしても、いろいろな側面から労働者を保護する法律も多数存在する。
例えば以下のようなものがある。
Title VII of the Civil Rights Act of 1964 (公民権法第7編)
1950〜1960年代にかけて起こった公民権運動に端を発して1964年に制定された法律。
人種、肌の色、出身国、性別、宗教・信仰をもとに差別をしてはならないという内容。
The Age Discrimination in Employment Act of 1967 (雇用における年齢差別禁止法)
年齢、とくに40歳以上の従業員を雇用差別から保護する法律。
American with Disability Act(アメリカ障がい者法)
障がい者を雇用差別から保護する法律。
また、障がい者に対しては合理的便宜を図る必要があることも規定されている。
The Fair Labor Standards Act of 1938(公正労働基準法)
最低賃金、超過勤務手当て(残業代)、残業代の支払いを免除されるExempt従業員、および最低賃金と残業代を支払わなければならないNon-exempt従業員についての区分が規定されている。
The Equal Pay Act of 1963 (平等賃金法)
同一施設内に勤務する男女が、類似の条件下において、同等のスキル・取り組み・責任を要求される職務を遂行する場合、賃金に差をつけてはならないとする法律。
これら以外にも、妊娠・妊婦保護、軍人の雇用・退役軍人の再雇用保護、国籍による差別禁止を規定する改正移民法、遺伝的特徴による差別を禁止する法律、安全な職場環境について規定する法律、労働組合の結成・団体交渉権・ストライキ実施権利を規定する法律などがある。
必ずしも法律の名称自体を覚える必要はないが、これだけ多岐にわたるということだけは覚えておいて欲しい。
<ハラスメント/セクシャルハラスメント>
職場におけるハラスメント(嫌がらせ)とは、「職務遂行にマイナスの影響を与えるような、継続して行われる侮辱的・歓迎されない行為、脅迫・敵対行動・報復、下劣な冗談、嫌悪感を与えるような内容の文書・Eメールの送付を指し、また、これらの行為が人種・肌の色・宗教・信仰・性別・出身国・国籍・市民権の有無・障がい・婚姻状態・年齢・性的志向などの保護されるべき特色をもとに行われていること」をいう。
そのなかでも性別に関するハラスメントがセクシャルハラスメント(セクハラ)だ。
ハラスメントもセクハラも違法行為であり、仮にそのようなことが起こった場合は、被害者の精神的ダメージ、加害者の懲戒・解雇処分、企業は被害者に対する賠償金の支払いを含む法的制裁措置を受けるなど、三者がそれぞれに負の影響を被るため、しっかりとした対策と対処が求められる。
過去のハラスメントの例を見ると、男性の上司が女性の部下に対して昇進や昇給と引き換えに性的な要求をする(これを「対価型ハラスメント」と呼ぶ)などの分かりやすいケースがあったが、今日のハラスメントは見つけにくく、すぐに見分けることが難しくなってきている。
例えば、一般的なコメントや冗談を言っているつもりが、受け手にとっては傷ついたり、嫌がらせと捉えられたりする(これを「環境型ハラスメント」と呼ぶ)ことも考えられる。
いずれにしても、加害者の意図(自身の言動についての解釈)よりも被害者の理解(受け止め方)が重要とされるため、日頃から言動や行動には細心の注意を払うことが必要である。
また、自分がハラスメントを受けた場合は、受けた行為が望まれないものであることを加害者に伝えなければならない。加害者が何らかの理由で「その行為は喜ばれている」と考えている場合は、伝えることが非常に重要である。
さらに、従業員がほかの従業員と望んで性的な関係にあり、その関係が終了したのであれば、「これまでの関係が望まれない関係に変わった」旨を相手に明確に伝えなければならない。ただ一方的に終了しただけでは、望まれない関係となったことを伝えたことにはならない。これら被害者の義務についても法律に明記されている。
最後に、環境型ハラスメントにおける「第三者ハラスメント」にも注意したい。これは、従業員が直接嫌がらせを受けているわけではないが、職場にハラスメントが発生しており、従業員が敵対的環境にさらされている場合を指す。
このように、単純に加害者・被害者の関係だけではなく、今日のハラスメントは複雑化してきている。前記のとおり相手に明確に伝えることにくわえ、何か問題があったときには必ず会社の規程・プロセスに従って告発し、適正な対処を要求することが重要である。
<管理職者や日本からの駐在員は…>
これまで書いてきたことは、とくに管理職者や日本からの駐在員は気を付けた方がよい。
なぜならば、管理職者は会社の代表であり、日本からの駐在員は日本本社の代表として考えられるからだ。つまり、何か問題が起こったときには個人の問題として収まらず、米国会社もしくは日本本社を巻き込むほどの大きな問題に発展する可能性がある、ということだ。
くわえて、部下を管理するうえでは、日常的に発生する「業務管理」や「勤務状況管理」、随時発生する「人事関連イベントやアクション」などの際にも気を付けた方がよいことがある。
<「業務管理」のマストアイテム=ジョブ・ディスクリプション>
ジョブ・ディスクリプションとは、あるポジションについての職務範囲と職責などを定めた人事書類である。
ジョブ・ディスクリプションには、主要業務や副次的業務の記載はもちろん、職務遂行に必要となる知識・スキル・経験・実績・学歴・資格、さらに身体要件・職場環境などについても明記する。
それは言い換えると、会社側があるポジションに対する期待を明記したものであるともいえることから、業務管理のマストアイテムであり、従業員とのコミュニケーションを促進し、生産性を上げる効果も期待できる。
また、商品やサービスで差別化をすることが難しくなってきている昨今、優秀な人材の確保と維持は非常に重要だ。
完成度の高いジョブ・ディスクリプションを整備することで、人材採用、適正な給与額の決定、年間目標の設定、業績評価、昇給・昇格の決定、必要となる育成・研修計画の策定など、さまざまな場面で活用できる。
<「勤務状況管理」=「会社の規程」と「勤務時間管理」>
自分の常識がほかの人の常識であるとは限らないということは強く認識しておく必要があるだろう。
ただ、個々人の違いを認めることと、会社としての共通の常識や一貫した対応は明確に分けて考えた方がよい。
それでは、会社としての共通の常識を各従業員に浸透させるためにはどうするか。
それは会社規程(従業員ハンドブック)を整備し、各従業員に知らしめるとともに、管理職者はその運用を徹底することである。従業員ハンドブックには、会社が遵守する法律(雇用機会均等など)や法律に沿った規程(差別・ハラスメント禁止など)、法定義務はないが会社が独自に決めた規程(守秘義務や利益相反など)、報酬や福利厚生、従業員の品行(適切・不適切な行為など)など、一般的に記載されている内容は幅広い。
シンプルで分かりやすい従業員ハンドブックにしておくことは従業員に浸透させるためには重要ではあるが、それと規程内容が薄い従業員ハンドブックとを混同してはならない。規程内容の薄い従業員ハンドブックは、言い換えると解釈の余地が広いということであり、対応の一貫性を保つことが難しくなる可能性があるということでもある。
また、判例法主義を採用するアメリカでは、法律の変更だけに注目するだけでは事足りないため、定期的に判例や人事トレンドを把握し、規程を改定することが求められる。古い従業員ハンドブックはコンプライアンスの面でも危険であることを意識しておきたい。
それから、部下の勤務時間の管理にも気を付けたい。前半の「代表的な雇用法・労働法」でも触れたとおり、残業代の支払いを免除されるExempt従業員および最低賃金と残業代を支払わなければならないNon-exempt従業員についての区分が法律で明確に規定されている。本来であれば残業代を支払うべきNon-exempt従業員であるはずが、Exempt従業員として扱われ、残業代の未払いが発生していないかどうかについてはきちんと把握し、間違いがあるようであれば迅速に対処すべきである。
<人事関連イベントやアクション>
管理職者は、さまざまな人事関連イベントやアクションに関わることになる。
たとえば、人材採用、部下の給与額の決定・業績評価・昇給や昇格の決定などである。
細かい注意点などはここでは省略するが、どの人事関連イベントでも重要なことは、①そのアクションが本当に効果的で会社全体の生産性の向上に貢献するか、②差別などのリスクがないか、のふたつの側面から常に見ることである。
また、何か問題が起こった際は、会社の規程に従って迅速にアクションを起こすことである。見て見ぬふりや問題の先送りは絶対にしてはならない。
新型コロナウイルス禍におけるアメリカの救済措置&休職制度
2021年3月|Lighthouse シアトル|https://www.youmaga.com/feature/covid19_us/