ニューヨーク Biz! 掲載「HR人事マネジメント Q&A」 第1回 『代替勤務スケジュール導入には残業代に関する法律の確認を』
雇用主側からは、「コロナ禍で仕事が減ったので、従業員の就労時間を40時間から30時間または30時間未満としたい」「自宅勤務を許可したは良いが、託せる職務に限りがある」「仕事量が減ったので、そのポジションを廃止したいが、ポストコロナ禍では人手不足になることを見据えれば、解雇せずに就労時間数を減らすなどしてそのポジションを温存しておきたい」「従業員が出勤を嫌がるので、1日8時間・週5日勤務から1日10時間・週4日勤務に変更することも考えたい」との相談が寄せられる一方で、雇用主側が懸念する従業員側の想いには、「優秀な従業員が自宅勤務を機に遠方に引っ越したいと言ってくる」「自宅勤務と出勤の割合は今のままの6対4を維持すべきだと、これ以上の出勤を嫌がる」「出勤を無理強いすれば自宅勤務に慣れた従業員の中から転職を考える者も多く出てくるだろう」「自宅勤務を認めるのならば、Make Up Time制も柔軟に認めるべきだ」などが挙げられます。
これらのうち、「1日8時間・週5日勤務から1日10時間・週4日勤務への変更」を模索されるに当たり、先ず、このような異なる就労形態を設定することをAlternative work schedules(代替勤務スケジュール)と呼びますが、これは何も最近の流行りではなく、たとえば、1994年1月にカリフォルニア州ノースリッジで地震が発生し、ロサンゼルスダウンタウンへ向かう幹線フリーウェイが分断されて通勤が困難になった時なども、自宅勤務と共に、1日10時間・週4日勤務形態が推奨されたこともあります。
このAlternative work schedulesは、週休3日となるわけですから、仮に、大半の従業員が好み且つ適切な方法で導入されれば従業員をよりやる気にさせるカンフル剤ともなりますが、大半の州が連邦法に則って週40時間以上働いた場合に超過分に1.5倍の賃金を払うとしている中、少数の州では1日8時間(または10時間・12時間)を超えた場合でも1.5倍の賃金を払うなど独自の州法を備えていたり、ワーク・スケジュールの変更には対象従業員による投票を条件付けしている州もあったりと、すんなり変更できるわけではありません。従って、検討される前に、一先ず、御社が所在する州の残業代に関する法律を確認してみてください。
ニューヨーク Biz! ページ
「新型コロナウイルス禍におけるアメリカの救済措置&失業保険」の記事の「休職制度」のパート
2021年5月|Lighthouse サンディエゴ 5月1日号|http://magazine.us-lighthouse.com/publication/?i=658682&ver=html5&p=24
「新型コロナウイルス禍におけるアメリカの救済措置&失業保険」の記事の「休職制度」のパート
2021年5月|Lighthouse ロサンゼルス 5月1日号|http://magazine.us-lighthouse.com/publication/?i=658440&ver=html5&p=34
ニューヨーク Biz! 掲載「マネジメントへの手紙」 マネジメント・コンサルタント/プロフェッショナル・コーチの視点から 第48回 『従業員のワクチン接種方針(2)』
前回=3月20日号掲載=に続き、オフィス再開プランの再検討に向けた米国内企業の実情をお伝えします。
前回は、EEOC(雇用機会均等委員会)が「接種の義務化は可能」との見解を出してはいるものの、コロナ・ワクチン接種を望まない従業員からの反発や訴訟リスク等を考慮すると、ビジネス上の明確な理由がないのであれば少なくとも現時点では任意レベルに留めておくのが無難であり、接種を推奨するのであれば奨励金制度など何かしらのインセンティブをつけることも考えられたら良いかもしれません。と寄稿しました。
これについて多くの問い合わせがあった為、今回も前回の記事を更に細かく解説したいと思いますが、先ず分けてお考え頂きたいのは、その従業員の職務が会社または工場や倉庫でしか遂行できない仕事なのか否かという点です。前者であれば、企業は大抵の場合、従業員にワクチン接種を要求する権利を元から有する為、特定の障害や宗教上の理由などの例外を除いて、ワクチン接種にインセンティブを提供する必要はないと考えますし、また、このような事態に一々インセンティブを提供すれば、これを当たり前と捉える風潮が強まる可能性もあることから、労務管理上、好ましい方向に進まないことも考えられます。対する後者の、従業員の職務が自宅から継続して行い得る場合、従業員がオフィスに来るよう要求されない限りはワクチン接種を推奨すること自体が不必要かもしれません。
次いで提供するインセンティブについて。上述した如く、出社を求めるビジネス上の明確な理由があるのであれば検討されて良いと言えますが、但しインセンティブとは言っても、それはあくまでもワクチン接種に費やす時間相当の2時間あるいはワクチン接種後の体調をも慮っての4時間これら1日以内の有給無給いずれかの短い休職時間を提供することを意味し、これら以外の何かを奨励したり報奨したりする必要はないということです。ワクチン接種とその後の体調の為にこれら以上の別種のインセンティブを出せば、それこそワクチン接種を断る従業員との一貫性の面で不公平感が生じる事にもなりかねないからです。
これに絡んでは、NY州ほか幾つかの州は、ワクチン接種する従業員に対して、無給(または有給)いずれかの休職を認めなければならない、というルールを策定し出してきています。
以上のことを合わせて考慮すれば、仮にコロナ・ワクチン接種を行う従業員に有給休職時間を提供する際は、既存の有給休暇や傷病休暇に数時間分を多く付与する方法ではなく、例えば、期限付き且つワクチン接種の証拠を提出することを条件にした、コロナ・ワクチン接種向けの新方針を設け、且つ、申請用紙の方も既存のものを流用せずに新たに作られるべきでしょう。
ニューヨーク便利帳(2019.12.17) 掲載 「アメリカで働く」
アメリカで働くうえで知っておいた方がよいことは多い。
日米のビジネス慣習の違いについて理解しておくことで、仕事をスムーズに進めることが可能になり、また最低限の雇用法・労働法・雇用慣習について知っておけば、健全な職場環境を維持できるうえに、小さいと思っていた問題が訴訟を含む大きな問題に発展するリスクから自身と会社を守ることが可能になる。
いずれにしても、「知らなかった」は通用しないということを肝に銘じておくべきだ。ここでは代表的な雇用法・労働法とハラスメント/セクシャルハラスメントについての概要を解説する。
※詳しくは専門家に確認を
<代表的な雇用法・労働法>
アメリカには、職場での(厳密には雇用上の決定に際しての)差別を禁止するさまざまな法律が存在する。国の成り立ち自体が移民国家(多民族国家)であり、公平を重んじるアメリカならではといえるが、法律の対象は非常に多岐にわたる。
また、直接的には差別にあたらないとしても、いろいろな側面から労働者を保護する法律も多数存在する。
例えば以下のようなものがある。
Title VII of the Civil Rights Act of 1964 (公民権法第7編)
1950〜1960年代にかけて起こった公民権運動に端を発して1964年に制定された法律。
人種、肌の色、出身国、性別、宗教・信仰をもとに差別をしてはならないという内容。
The Age Discrimination in Employment Act of 1967 (雇用における年齢差別禁止法)
年齢、とくに40歳以上の従業員を雇用差別から保護する法律。
American with Disability Act(アメリカ障がい者法)
障がい者を雇用差別から保護する法律。
また、障がい者に対しては合理的便宜を図る必要があることも規定されている。
The Fair Labor Standards Act of 1938(公正労働基準法)
最低賃金、超過勤務手当て(残業代)、残業代の支払いを免除されるExempt従業員、および最低賃金と残業代を支払わなければならないNon-exempt従業員についての区分が規定されている。
The Equal Pay Act of 1963 (平等賃金法)
同一施設内に勤務する男女が、類似の条件下において、同等のスキル・取り組み・責任を要求される職務を遂行する場合、賃金に差をつけてはならないとする法律。
これら以外にも、妊娠・妊婦保護、軍人の雇用・退役軍人の再雇用保護、国籍による差別禁止を規定する改正移民法、遺伝的特徴による差別を禁止する法律、安全な職場環境について規定する法律、労働組合の結成・団体交渉権・ストライキ実施権利を規定する法律などがある。
必ずしも法律の名称自体を覚える必要はないが、これだけ多岐にわたるということだけは覚えておいて欲しい。
<ハラスメント/セクシャルハラスメント>
職場におけるハラスメント(嫌がらせ)とは、「職務遂行にマイナスの影響を与えるような、継続して行われる侮辱的・歓迎されない行為、脅迫・敵対行動・報復、下劣な冗談、嫌悪感を与えるような内容の文書・Eメールの送付を指し、また、これらの行為が人種・肌の色・宗教・信仰・性別・出身国・国籍・市民権の有無・障がい・婚姻状態・年齢・性的志向などの保護されるべき特色をもとに行われていること」をいう。
そのなかでも性別に関するハラスメントがセクシャルハラスメント(セクハラ)だ。
ハラスメントもセクハラも違法行為であり、仮にそのようなことが起こった場合は、被害者の精神的ダメージ、加害者の懲戒・解雇処分、企業は被害者に対する賠償金の支払いを含む法的制裁措置を受けるなど、三者がそれぞれに負の影響を被るため、しっかりとした対策と対処が求められる。
過去のハラスメントの例を見ると、男性の上司が女性の部下に対して昇進や昇給と引き換えに性的な要求をする(これを「対価型ハラスメント」と呼ぶ)などの分かりやすいケースがあったが、今日のハラスメントは見つけにくく、すぐに見分けることが難しくなってきている。
例えば、一般的なコメントや冗談を言っているつもりが、受け手にとっては傷ついたり、嫌がらせと捉えられたりする(これを「環境型ハラスメント」と呼ぶ)ことも考えられる。
いずれにしても、加害者の意図(自身の言動についての解釈)よりも被害者の理解(受け止め方)が重要とされるため、日頃から言動や行動には細心の注意を払うことが必要である。
また、自分がハラスメントを受けた場合は、受けた行為が望まれないものであることを加害者に伝えなければならない。加害者が何らかの理由で「その行為は喜ばれている」と考えている場合は、伝えることが非常に重要である。
さらに、従業員がほかの従業員と望んで性的な関係にあり、その関係が終了したのであれば、「これまでの関係が望まれない関係に変わった」旨を相手に明確に伝えなければならない。ただ一方的に終了しただけでは、望まれない関係となったことを伝えたことにはならない。これら被害者の義務についても法律に明記されている。
最後に、環境型ハラスメントにおける「第三者ハラスメント」にも注意したい。これは、従業員が直接嫌がらせを受けているわけではないが、職場にハラスメントが発生しており、従業員が敵対的環境にさらされている場合を指す。
このように、単純に加害者・被害者の関係だけではなく、今日のハラスメントは複雑化してきている。前記のとおり相手に明確に伝えることにくわえ、何か問題があったときには必ず会社の規程・プロセスに従って告発し、適正な対処を要求することが重要である。
<管理職者や日本からの駐在員は…>
これまで書いてきたことは、とくに管理職者や日本からの駐在員は気を付けた方がよい。
なぜならば、管理職者は会社の代表であり、日本からの駐在員は日本本社の代表として考えられるからだ。つまり、何か問題が起こったときには個人の問題として収まらず、米国会社もしくは日本本社を巻き込むほどの大きな問題に発展する可能性がある、ということだ。
くわえて、部下を管理するうえでは、日常的に発生する「業務管理」や「勤務状況管理」、随時発生する「人事関連イベントやアクション」などの際にも気を付けた方がよいことがある。
<「業務管理」のマストアイテム=ジョブ・ディスクリプション>
ジョブ・ディスクリプションとは、あるポジションについての職務範囲と職責などを定めた人事書類である。
ジョブ・ディスクリプションには、主要業務や副次的業務の記載はもちろん、職務遂行に必要となる知識・スキル・経験・実績・学歴・資格、さらに身体要件・職場環境などについても明記する。
それは言い換えると、会社側があるポジションに対する期待を明記したものであるともいえることから、業務管理のマストアイテムであり、従業員とのコミュニケーションを促進し、生産性を上げる効果も期待できる。
また、商品やサービスで差別化をすることが難しくなってきている昨今、優秀な人材の確保と維持は非常に重要だ。
完成度の高いジョブ・ディスクリプションを整備することで、人材採用、適正な給与額の決定、年間目標の設定、業績評価、昇給・昇格の決定、必要となる育成・研修計画の策定など、さまざまな場面で活用できる。
<「勤務状況管理」=「会社の規程」と「勤務時間管理」>
自分の常識がほかの人の常識であるとは限らないということは強く認識しておく必要があるだろう。
ただ、個々人の違いを認めることと、会社としての共通の常識や一貫した対応は明確に分けて考えた方がよい。
それでは、会社としての共通の常識を各従業員に浸透させるためにはどうするか。
それは会社規程(従業員ハンドブック)を整備し、各従業員に知らしめるとともに、管理職者はその運用を徹底することである。従業員ハンドブックには、会社が遵守する法律(雇用機会均等など)や法律に沿った規程(差別・ハラスメント禁止など)、法定義務はないが会社が独自に決めた規程(守秘義務や利益相反など)、報酬や福利厚生、従業員の品行(適切・不適切な行為など)など、一般的に記載されている内容は幅広い。
シンプルで分かりやすい従業員ハンドブックにしておくことは従業員に浸透させるためには重要ではあるが、それと規程内容が薄い従業員ハンドブックとを混同してはならない。規程内容の薄い従業員ハンドブックは、言い換えると解釈の余地が広いということであり、対応の一貫性を保つことが難しくなる可能性があるということでもある。
また、判例法主義を採用するアメリカでは、法律の変更だけに注目するだけでは事足りないため、定期的に判例や人事トレンドを把握し、規程を改定することが求められる。古い従業員ハンドブックはコンプライアンスの面でも危険であることを意識しておきたい。
それから、部下の勤務時間の管理にも気を付けたい。前半の「代表的な雇用法・労働法」でも触れたとおり、残業代の支払いを免除されるExempt従業員および最低賃金と残業代を支払わなければならないNon-exempt従業員についての区分が法律で明確に規定されている。本来であれば残業代を支払うべきNon-exempt従業員であるはずが、Exempt従業員として扱われ、残業代の未払いが発生していないかどうかについてはきちんと把握し、間違いがあるようであれば迅速に対処すべきである。
<人事関連イベントやアクション>
管理職者は、さまざまな人事関連イベントやアクションに関わることになる。
たとえば、人材採用、部下の給与額の決定・業績評価・昇給や昇格の決定などである。
細かい注意点などはここでは省略するが、どの人事関連イベントでも重要なことは、①そのアクションが本当に効果的で会社全体の生産性の向上に貢献するか、②差別などのリスクがないか、のふたつの側面から常に見ることである。
また、何か問題が起こった際は、会社の規程に従って迅速にアクションを起こすことである。見て見ぬふりや問題の先送りは絶対にしてはならない。
新型コロナウイルス禍におけるアメリカの救済措置&休職制度
2021年3月|Lighthouse シアトル|https://www.youmaga.com/feature/covid19_us/
「新型コロナウイルス禍におけるアメリカの救済措置&失業保険」の記事の「休職制度」のパート
2021年1月|Lighthouse シアトル|https://www.youmaga.com/telephone_life/ssn/