ニューヨーク Biz! 掲載「HR人事マネジメント Q&A」 第48回 『気象災害よるオフィスクローズ(3)』
前々回つづく前回=4月26日号掲載=も「天候不良や災害によるオフィス臨時クローズ」を取り上げ、その末尾にて、オフィス臨時クローズポリシーと在宅勤務ポリシーは連動させておくかまたは予め整合性を持たせておくべき、さもないと人事管理に混乱をもたらすことになるからで、混乱の理由は会社が天候不良や災害発生当日に全従業員の出社停止を決めた際、総就労時間数で給与額が計算されるノンエグゼンプト従業員の立場では就労すなわち在宅勤務ができるか否かで当該月の報酬額が違ってくるためだと述べました。
大抵のケースではノンエグゼンプト従業員を対象に当該日には会社側が未使用の有給休暇(時間)を強制的に充てる権利を有することや未使用のシックリーブ(時間)を本人希望で使用できるようにするとのようなポリシーを設けていますが、従業員側としてはこれらを充てて有給時間をむざむざ消化させられるよりは就労したいでしょうし、既に有給休暇もシックリーブも使い果たした従業員なら猶更のこと、しれっとまたは抗ってでも在宅勤務を強行し働いた実績とする欲求が高まります。(注:従業員が就労したことを申告した場合、会社側はそれを無効にできない)
従ってたとえ有給時間を充てられる方針を有していてもポリシーにて当該日を在宅勤務とすることを従業員側の一存で決められるようになっているか或いはその判断部分が曖昧になっていれば誰しもが在宅勤務扱いに持ち込みたいわけです。もちろん一所懸命会社の為に働いてくれるかわいい従業員達に良かれと敢えてそのように仕向けている会社もありますが、人事管理の観点からみれば厚遇するべき方向性が違うと感じます。
能力あるまたは頑張る従業員らを厚遇するのは当たり前ですが、従業員がその日どこで働くのか直前まで把握できないのは明らかに管理ミスですし管理怠慢と映ります。また「今日は家で仕事するのだろう」と思っていたのに実は災害の被害に遭っていたとなれば監督不行届であり管理責任を問われることにもなり得ます。
従って冒頭に書いたように、オフィス臨時クローズポリシーと在宅勤務ポリシーを連動させた上で悪天候や災害が予想される場合、「本日(明日)は悪天候が予想されるためオフィスをクローズにします。在宅勤務が可能な従業員は在宅勤務を行ってください。在宅勤務が許可されていない従業員で有給休暇の使用を希望する者は速やかに申し出てください」などのアナウンスをしつつ、いつなんどきでも連絡が取れるよう日頃から体制整備しておくことが肝要となります。
ニューヨーク Biz! 掲載「HR人事マネジメント Q&A」 第47回 『気象災害よるオフィスクローズ(2)』
前回=3月22日号掲載=では「天候不良や災害によるオフィス臨時クローズ」について取り上げました。その前回は末尾にて、大抵は会社に備わっている筈の安全基準指南書や緊急事態マニュアルに常時目を通しておくことが如何に大切かを強調し、加えて出社停止の決定についても在宅勤務に切り替える判断についても必ずや会社側主導で判断するべきであり従業員側に委ねるべきではないと締めくくって筆を置きました。
この「会社側主導で判断するべき」は皆さんからすれば当り前のことのように思われるかもしれません。但し「在宅勤務ポリシー」を備えていないか或いは備えてはいるも「オフィス臨時クローズ」ポリシーと連動させていなければ天候不良に遭った日にルールに沿った判断ができず、その都度管理職者個人の判断に任せてしまうことになり、これが高じると判断基準からルールそれに人事管理上必須の「一貫性」すら失いかねません。そしてそれら希薄な判断の根拠に対していずれは従業員側からアンフェアあるいは差別だとクレームが入り、物々しい騒ぎにまで発展してしまう可能性も出てきます。
まだあります。在宅勤務に切り替える判断を従業員側に委ねてしまうなら、会社が定めた出社(通勤)ポリシーの崩壊を導いたり人事考課時のアテンダンス(出勤欠勤評価)の採点そのものにも影響を与えることになるでしょうし、それに加えて出勤の有無の確認も誰が何処にいるかも把握できずに人事管理の根幹を欠損させる可能性すらあります。
その他にも従業員タイプであるエグゼンプトとノンエグゼンプトの区分問題にも絡んできます。何故なら、専門職や管理職が属するエグゼンプト従業員区分とは異なり、就労時間数で賃金が計算されるノンエグゼンプト従業員だと、会社が出社停止を決定した日で尚且つ在宅勤務を認めないケースでは、各従業員の未使用有給休暇時間を強制的に充てるか否か、未使用のシックリーブ時間を本人希望で充てられるようにするか否か、についてのポリシーも予め定めておかねば従業員をしてオフィスクローズ時の混乱に拍車がかかるだけだからです。
オフィス臨時クローズと在宅勤務それぞれのポリシーに絡んではここに挙げた以上の周辺ポリシーにも波及する恐れがありますが、続きは次回に。
ニューヨーク Biz! 掲載「HR人事マネジメント Q&A」 第46回 『気象災害よるオフィスクローズ(1)』
これまで3カ月3回に亘って取り上げたコラム内容「昇給圧力」にまつわる解説を休止し、今回からは「天候不良や災害によるオフィス臨時クローズ」について述べます。
東部や中西部ではもっぱら大寒波到来時や大雪警報発令時、南部ではもっぱらハリケーンや竜巻の襲来時、会社幹部には従業員たちを普段通り出社させるか自宅待機させるかを「大抵は早朝までに」決めなければならない喫緊案件が生じます。そんな中、今年は例年の気象問題以外に1月はロサンゼルス北東部で広範囲の山火事が2月はデトロイト南西部で水道管破裂から一夜にして一帯が氷漬けとなる災害が起きたことで相談件数が突出して増えたことから焦眉の課題と思い急遽取り上げることにしました。
ロサンゼルス山火事では20万人以上がデトロイト氷漬けでは400人が避難したとのことで被災人数に多寡はあれど仮に皆さんの会社に勤める従業員がこのような災害に遭ったのであれば何らかの決定を下さなければならず、またそれが人身に影響を及ぼしそうな事象であれば猶のこと待ったなしの決断を要します。
このような緊急事態の時のために皆さんの会社にもマニュアルやルールが備わっていま…いる筈です。大抵は従業員ハンドブックの中に盛り込まれていますが、災害の起こり易い地域や企業規模や業種いかんでは安全基準指南書や緊急事態マニュアルを備えているところもあります。けれども肝心の幹部社員たちがマニュアルがあることを忘れ或いは未読ゆえに慌てふためいてしまえば従業員たちに二次災害や二次被害を及ぼしてしまうかもしれず、従ってもしもの時を想定し普段からマニュアルに目を通しておくことが切に重要になります。
ところで2019年以前は在宅勤務者自体が少なく天候不良や災害時にオフィスをクローズするかいつも通りに出社させるかの選択に決断が要ったものですが、それは出社停止がイコール業務停止だったからです。それが最近は在宅勤務者や在宅勤務経験者が多いことから出社停止がイコール業務停止とはならず、出社してしか職務遂行できない就労者を除き出社停止の決定イコール在宅勤務に自動的に切り替わることも少なくありません。但しこの判断および決定は従業員側に委ねるのではなく必ずや会社側が為さねばなりません。続きは次回。
ニューヨーク Biz! 掲載「HR人事マネジメント Q&A」 第45回 『昇給圧力(3)』
前回=1月25日号掲載=の記事にて「Pay Transparency Act(賃金透明法)を施行する州では求人募集要項に報酬内容の記載を義務付けたことから企業間の応募者数の多寡がはっきり現れることになる」と締めくくりました。つまり人気ポジションか不人気ポジションかを求職者がきっちり線引きしてしまう為、これまで以上に不人気ポジションへの昇給圧力が高まるだろうことを説いたのでした。
即ち、これまでの求人情報あるいは募集情報だと例えば「給与は4万ドルから7万ドルの間で経験と能力次第」などと給与レンジをあまりに広くざっくり書くか或いは敢えて給与額を無記載にしたあと面接時に報酬額を決めていたのが今後はそうはいかなくなるということです。また給与額に同じくボーナスやインセンティブおよびベネフィットなど追加報酬や福利厚生も「出るか出ないかは業績次第・本人のやる気次第」などの曖昧な売り文句も慎まねばならなくなってきたということです。ならば人材紹介会社を通して募集すれば良いかと考えるでしょうが、そのような第三者を介した募集に際しても同法は適用対象になります。
同法の細かなルールや適用範囲は会社規模や地域により異なりはしますが本年初めからイリノイ州とミネソタ州も加わって既に多くの州(および幾つかの自治体)が施行しており、また別の数州も本年後半からの施行開始を検討する中、この米国全域での賃金透明法導入の動きは止まらないものと考えます。
同法はまた外に向けての求人募集に限らず社内にも影響を及ぼします。何故なら社外募集に限らずジョブポスティングと呼ばれる社内募集時にも給与額を開示しなければならないとする州が多いからであり、特筆すべきはカリフォルニア州の「募集時に限らず従業員が自身のレンジを問い合わせてきた場合も開示する必要あり」と個々の従業員向けに給与レンジの開示義務すら課している点です。
但し悲観することはありません。自社内で予め「魅力的な」給与額を確立しておけばよく、しかし一方で出張経費や諸経費を抑え過ぎるなどして従業員のやる気を削がないようにも努めねばなりません。もし他と比べて遜色ない報酬を提供するのが難しいなら、他社にはない別の有用なところをアピールしましょう。つまりはこれを機に、たとえ小規模の会社であろうとこの昇給圧力問題に適切な施策を打ち、会社自体を魅力的に思わせるよう転換させるべき時期なのです。
ニューヨーク Biz! 掲載「HR人事マネジメント Q&A」 第44回 『昇給圧力(2)』
このコラムをご覧の皆さま、遅れ馳せながら本年もどうか宜しくお願い致します。皆さまにおかれましては人事・雇用問題に関して大過なき1年となりますよう謹んでお祈り申し上げます。
本筋に入りますが前回=12月21日号掲載=の記事では「公正労働基準法の Salary Testおよび諸州のMinimum wageの独自引き上げが昇給圧力の二大要因の一つ」と説きました。そして今回は昇給圧力のもう一つの大要因と考えるPay Transparency Actについての序説を述べたいと思います。
米国の現在の景気と今後の動向に絡んで、米労働統計局が1月15日に発表したところによれば、昨年12月の消費者物価指数は9月・10月・11月の3カ月間より高く前年比2.9%(季節調整前)であり、尚且つこれら4カ月は連続で前年比(2023年)を上回ったようです。勿論この数値は2021~22年のインフレ急騰時から比べれば低くはあるものの依然として労働者に大きな影響を与えており、1000人超の国内労働者を対象にした昨年末実施の満足度調査によれば43%が「インフレが個人の財務状況に極度に或いは重大な影響を及ぼしている」と回答(前者が18%・後者が25%)。逆に個人の財務状況に影響なしは僅か5%だったとのこと。つまり仮にこの年末年始中に昇給があったとしても労働者の大半が物価高騰に追い付けるほど給金を得ていない状況下にあるということです。
ところで物価が上がれば係るビジネス経費も高くなるは必定。米国税庁は今年の標準マイレージレートを3セント引き上げて1マイルあたり70セントと発表。これは多くの企業が採用している業務遂行に際して私有車を用いた場合に走行距離分を経費名目で従業員に払い戻す方法の一つなのですが、かつては数年に一度の間隔で上がっていた同レートがここ数年は毎年上がっており、加えて国内出張に限ってみても従業員に支払う食費や宿泊代など日当の方も右肩上がりに跳ね上がっています。
求人数の方は12月の新規雇用数が25万6000件にも達し6カ月ぶりの高水準だったことから同月の失業率は4.1%にまで落ちました。それに仕事を辞める人が減ったことも相まって退職者数はパンデミック時のピーク以来最低にまで下がった由。先月(昨年末)がこのような数値だったことから2025年の雇用(数)については今のところ楽観的にみられています。
そんなビジネス経費が跳ね上がり且つ雇用が楽観視される中、件のPay Transparency Act施行済み州および施行し始める州では企業が出す求人募集要項に記載される給与額次第で応募数の多寡がはっきりします。オファーする給与額如何で企業の採用が極端に左右されることから、これまで低めの給料・低めの経費で賄ってきた企業にとって同法がかなりの昇給圧力になるどころかいよいよ人手不足に陥ることを覚悟しなければならなくなるでしょう。
ニューヨーク Biz! 掲載「HR人事マネジメント Q&A」 第43回 『昇給圧力(1)』
前々回=10月26日号掲載=の記事で「昇給圧力の要因は今年に限ればFLSA Salary TestやPay Transparency Actが強く作用している」と説き、前回=11月23日号掲載=の記事にてその根拠を解説する予定が景気動向に紙面を割き過ぎたことから今号へと先延ばししました。
一つ目のFLSA Salary Testとは、FLSA(公正労働基準法)上で残業代支払い対象となるNon-exempt従業員と片や残業代支払いを免れるExempt従業員を分けるためのチェック項目のうちの一つであり、即ちExempt従業員たるに支払われるべき給与額最低値を定めた境界ラインを指します。私がこれを昇給圧力の要因に挙げた理由は今春にこの最低値を米労働省が一挙に引き上げる行為に出たからです。この計画は第1弾として今年7月と来年1月の2段階式に引き上げられるもので、既に1段階目の7月の引き上げを済ませ2段階目となる来年1月の引き上げ要求を見据え各社が再び給与調整を行おうとしていたのが今年末のまさに今なのです。(ちなみに第2弾は以後3年毎に引き上げていく予定下にありました)
ところがそこに飛び込んで来たのがテキサス州東部地区連邦地方裁判所をして米労働省のFLSA給与基準値引上げ要求そのものを無効とする11月15日の判決結果のニュースで、来年1月時はおろか今年7月時の引き上げまでも無効化するものでした。それ故あちこちの会社でただいま混乱が起きています。謂わば7月時に続いて引き上げられる筈の次の給与基準値に迄また給料が上がると見込んでいた従業員たちをして落胆せしめたからであり、対する雇用主側も「そんな予定はなかった」と今更とぼけることすら出来ずにいる為です。
この無効化のニュースは前回の11月23日号掲載のコラムを送稿した直後に発表されたことから私自身も驚かされましたが、但し過去これまでにもSalary Testの引き上げ要求は何度となく俎上に上がっており、今回無効化されたとはいえ昇給圧力の一つとして今後も強く作用していくことに変わりありません。
加えて連邦のMinimum wageの上昇を待てず引き上げを独自に行って来ている東西両海岸をはじめとする諸州では今や最低賃金額が15ドル前後にまでなり、対する連邦政府の定める7.25ドルに依然として倣っている諸州との間で給与額で二極化が起きており、連邦法であるFLSA給与基準値引上げ要求の無効化がこれに拍車をかけるかもしれません。
生活費を考慮するにせよ、この流れは先の大統領選挙で起きた国を二分化させた動きにも類しますが、来年早々から共和党トランプ政権になることでこの昇給トレンドや給与格差が少しは収まるのか、はたまたより上昇を続けるのか、如何なる方向に展開するかは暫く様子見するより他ありません。
ニューヨーク Biz! 掲載「HR人事マネジメント Q&A」 第42回 『人余りの始まり(4)』
前回=10月26日号掲載=の記事にて「現在の昇給圧力には最近はじまったFLSA Salary Test やPay Transparency Actが強く作用しており、在米日系企業の間でもいよいよ愁眉の問題となってきた」と締めくくりました。
ここ数年の大退職時代と言われる動きが既に一段落したであろうことは皆さんも同じように思われた筈で、これは雇用指標調査の主軸である募集数・採用数・退職数全ての数字が下がって来た統計結果でも明らかであり、つまり人々は今の仕事を辞めて転職するリスクを取らなくなった…もちろん毎年この時期から始まるホリディーシーズン期間中は就職退職/転職活動の動きが鈍くなることを差し引いてみても…ということです。
翻って、仕事を探している人の割合は依然として高く且つ失業率も上がって来ています。これは自主退社や解雇レイオフによるものではなく、家庭事情および復学やリカレント教育の目的のほかワークライフバランスなど何らかの理由により暫くのあいだ就労していなかった人々が新たにまたは再び仕事に復帰しようと試みるも職を見つけるのに苦労していることに因るものとされています。そしてこの中にはアルバイトではない初めて正社員職を求め奔走する新卒者グループもが加わります。
働き盛りの25~44歳の壮年層に限っていえば労働参加率が就労可能人口比で83・8%(2023年時)と実に20年前レベルの83%越えにまで戻って来ました。即ち、求職者数は多いものの前述の募集数・採用数・退職数が下がっているため働く先を見つけられずにおり、それが失業率に反映されているのが実態のようです。(注:失業率は求職活動を行いながら失業保険を申請受給した人数と総雇用数との比率で測られます)
ところで本来なら仕事を探す人が増えれば買手市場となり企業側が出す給料レベルもそんなに上げなくて良い筈。事実、大手コンサルティング会社が発表する今年の市場平均昇給率は一昨年時よりも昨年時よりも下回りました。
ところがそんな労働市場に対し、FLSA Salary Test見直しやPay Transparency Actが各地で施行され始めたことから、需給関係とは別に新法や規制に沿うべく企業側は引き上げざるを得なくなった…労働者達に言わせれば生活費の上昇に追付きはしないものの漸く少しだけ給与額が引き上げられた…との背景があり、件の昇給圧力と因果関係については今回述べる予定でいたものの文字数の都合により次回に回すことに致します。
ニューヨーク Biz! 掲載「HR人事マネジメント Q&A」 第41回 『人余りの始まり(3)』
前回=9月28日号掲載=の記事にて「例年通りであれば夏は年末商戦を見据え製造業は増産体制となり物流も活発になり加えて小売業や外食産業も雇用を増やす時期に入ると捉えられているにもかかわらず7月の雇用増加数が直近の3カ月に比べて極端に下がったのに続き8月の雇用増加数すらも予想を下回った」と書きました。
ところがここに来て9月の新規雇用数が予想を上回る25万4000件だった報告がなされ加えて7月8月合わせた雇用数も実際は7万2000件多かったと上方修正…それでも雇用増とは言い難い…がされました。このような事象はこの時期特有の新卒者採用と重なるほかにホリデーシーズンに向けた各社の雇用増計画がようやく数値に現れ始めたものとも言えるでしょう。
尚、雇用増の内訳としてレジャーおよびホスピタリティ部門(レストラン、旅行、スポーツ関連)は年初の低迷から抜きん出て雇用が急増し景気を押し上げる好ましい要因にはなったものの、対する製造関連は直近3カ月間で9300人の雇用が失われるなど引き続き減っており、このブルーカラーワーカーの雇用減状態が消極的事実として景気の先行きを不安視させています。またパンデミックが終わったことから医療従事者の新規雇用の方も鈍化しました。
あと、民間企業の全米平均給与値でいうと、今年6月時点で時給が昨年比1・93ドル上昇、即ちここ1年で週給だと77ドル前後、年俸だと4000ドル前後上がったことになりますが、日本でも労働組合や野党の圧力もあり前首相が最低賃金を2030年代半ばまでに1500円に引き上げる目標を掲げたところ、その給与額ではとても賄いきれないと悲鳴を上げる中小企業を中心に雇用が縮小するといわれており、翻って米国の方でも或る米エコノミストが「1年以上の減速の後でも労働市場は良好で雇用者需要と労働者供給の持続可能なバランスを維持しながら幅広い雇用増加と大幅な賃金上昇をもたらしている」と広言するも、現在のように年間を通じて全体的に雇用が減速し続けている中でのこの「昇給圧力」の傾向は雇用減や景気減に働くものとして危惧されます。
ところでこの昇給圧力の背景あるいは理由は、人手不足は言わずもがな、その他にも過去に取り上げたPay Transparency ActやFLSA Salary Testが強く作用しているからだと思います。どちらの法律も前々から囁かれたものでありつつ、ここに来て日系企業の皆さんの愁眉の問題となってきたことが果たして昇給圧力と如何な因果関係にあるかは次回から述べたく予定します。
ニューヨーク Biz! 掲載「HR人事マネジメント Q&A」 第40回 『人余りの始まり(2)』
前回=8月24日号掲載=そして今回のコラムを見られた方はさぞかし「うむっ?」と訝ったことでしょう。長らく用いてきている横の見出し「人手不足」を変えることなく縦の見出しを「人余りの始まり」としている矛盾に対してです。
これには理由があって、実際に業種・職種によってはまだまだ人材不足のところが多いですし、今後はますます継続して人手が不足する職種と人余りまたは人力が不要になっていく職種とで明確に線引きがなされていくでしょうが、例年通りであれば年末商戦に向けて夏以降に製造業なら国内でも増産に着手し、物流が活発になり、小売業および外食産業も雇用を増やす頃合いと考えられる時期にもかかわらず、7月の(非農業部門の)雇用増加数は11万4000人で過去3カ月に比べて極端に下がったのに続き8月の雇用増加数すらも予想を下回って14万2000人と芳しい数字ではなかった様子。これは8月の失業率が7月の4.3%に続いて4.2%とわりかし高い数値だったことからも窺えます。
それと驚くべきことに9月3日「米国の雇用増加数 80万件以上 低減」との見出しで米労働統計局より出されたのが、「昨年4月から今年3月までの12カ月を再集計したところ当局がこれまでに報告した雇用数合計よりも81万8000件少なかった」との発表でした。月平均に換算すれば実に毎月6万8000件強も下方修正されたことになります。つまり「大退職時代」や「活発な転職活動」と労働者転職者がもてはやされていたにもかかわらず、昨春以来の米国の雇用増加数は思ったほど多くはなく、また今後の雇用の勢い自体も鈍化していることが明らかになった証とも言えますが、けだしこのことは実際の統計結果を待たずとも既に大勢が肌で感じておられることでしょう。
加えて物価上昇率の方も、「7月が前年比2.9%、この数値は2021年以来初めて3%を下回った」と前回で書いた矢先に8月は2.5%までに下がりました。見方を変えれば落ち着いたとも言えます。しかしながら今夏の米国は物価が高止まりしているとはいえインフレ率が鈍化したゆえに連れて賃金もが労働者が期待するほどに上がらなければ雇用市場は魅力的には映りません。言い換えれば強気で職探しをしていた労働者たち(人材ともいう)が願うほどの高給の職にありつけない事態とも言えますが、対する雇用主側は労働市場が冷え込んできているのを直感的に感じ取り、社員たちは転職しない筈と安心して大半の従業員の賃金の上げ幅を今年は穏やかなものにする筈です。こqれはここ数年で上げ過ぎた(と雇用側が思っている)給与額をこの機に抑制することで適正な給与値に戻し安定した経営をしたい思いからでしょう。
以上、人手不足・人余りに二分化していくことが、相対する見出しを掲げた由であります。
ニューヨーク Biz! 掲載「HR人事マネジメント Q&A」 第39回 『人余りの始まり(1)』
当コラムを読まれる皆さん方も既に色々な媒体で目にしたことと思いますが、米労働統計局から出された先月の雇用関連統計数値や先行指標に基づき、報道機関各社が8月初めに相次いで今秋以後の景気予測を行いました。
その中の雇用に関係した7月の統計結果は、失業率が4.3%、非農業部門の雇用数が前月比11万4000人増、物価上昇率が対前年同月比2・9%でした。
ちなみに4月・5月・6月の失業率はそれぞれ3.9%・4.0%・4.1%と推移して来て7月時に4.3%と上げ幅を大きくし、かたや4月・5月・6月の非農業部門の雇用増加数は前月比17万5000人・27万2000人・20万6000人と上下動しつつ7月には11万4000人と極端に下がってしまった由。
尚、4月時の17万5000人増との結果には「過去6カ月間で最低の雇用増加数を記録した」との注釈が添えられており、他方で、7月の雇用増加数も4月の実績に同じ17万5000人と予測していたのがそれを6万人以上も下回ってしまった事実をエコノミスト達は相当深刻に受け止めているようです。
あと、前月の当コラム=7月27日号掲載=にて「鈍化傾向が確定しつつあり、経済が少しずつパンデミック前の状態に戻っていく」と書いたものの、他に同じく7月の物価上昇率の結果は予測値の3.0%より低い2.9%で、これが2021年以来初の3%を下回ったことと相まって、今日では鈍化を超え景気後退を恐れる雰囲気が米国全体を覆い始めて来ています。
とにかく景気動向を予測するのに用いられるファクターの中の失業率や雇用増加数いずれの7月の数値もが予想に反するかまたは予測値まで達していないことから、各ニュースはこれらの動きをFRBが9月に利下げに動く可能性と絡めて報じたところが大半でした。
しかしながら、そもそも幾多の雇用を生み出した大手製造業種が全盛を誇ったかつての時代とは打って変わり現在の米国はそれほど雇用を生まないIT産業やIT関連業種が勃興し、況してやそこにAI(人工知能)技術までもが導入され始めれば以後は多くの職種が消失し、とりわけ米国をはじめとする先進国の雇用総数に多大な影響を及ぼすこと必至。
但しそこまで先読みせずとも「現従業員の転職熱が冷め、会社も従業員を補充せず、インターンシップ採用数(新卒枠)すら減っている」との現状を前月の当コラムでも書きましたが、不況期の如き「職に就けるだけ有難い」と皆が考えるようになる時代がもうそこまで来ているかもしれず、さすれば当コラムのサブタイトル「人手不足」は「人余り」あるいは「人員過剰」に置き換えられることになるでしょう。