ニューヨーク Biz! 掲載「HR人事マネジメント Q&A」 第52回 『雇用情勢と今後の勤務形態(3)』
前回─9月27日号掲載─の記事では、雇用減速が最近とみに顕著になってきている現状をお伝えしつつ、裏付け証拠として、求人件数・雇用数いずれも減っており対する新規失業保険申請件数が加速度的に増えていること。連邦政府職を解かれた数十万人をはじめとする労働者たちが新たな仕事を見つけられずに難渋していること。更に労働市場の冷え込みと移民政策の世界的な引き締めにより海外の求職者たちが米国を含む自国以外の仕事への応募意欲が低下していること等を書き連ねました。
これらに況して10月24日に発表された雇用関連データからは、7月・8月の雇用が低調だったことに加え5月・6月が当初報告されたよりも大幅に少ない雇用実績値に下方修正されたことを以って予想よりもはるかに速いペースで雇用が鈍化していることが示されました。
では9月はどうだったか? まだ正確な統計値は出てはいないものの失業率は4.3%で前月から横ばいとなる見込みであり雇用値の方も同じく前月から横ばいとなる見込みとのことですが、反面、連邦政府の雇用が更に減るであろうこと。プライベート企業の週平均労働時間が34.2時間でここ数カ月間は増えていないこと。年末に向けた雇用が増えてくる今の時期にあっても臨時雇用動向が引き続き減少傾向にあること。反対に企業が機敏性を求めたことで柔軟な雇用や契約社員(個人事業主)の利用が増えていること。それにエントリーレベルの職務とりわけ型に嵌まったルーチン的な業務内容においてAIや自動化ツールに置き換えられ始めている可能性があること。そしてこれらに政府機関の閉鎖により予定されていた(9月の)給与統計の発表自体が遅れていることが相まって幾重にも雇用不安が奏でられ、先行きを一層不安視させています。
ちなみに、米国労働統計局(BLS)が6月に出した本年3月時点のプライベート企業が支払う労働者総報酬は平均45.38ドル/時であり、内訳は、金銭報酬が平均31.89ドル/時(総報酬の70.3%)、福利厚生は平均13.49ドル/時(29.7%)となっています。また9月に出された予測値では平均時給は前年比3.7%の上昇が見込まれるとのことです。
これらを、前回の記事末尾「従業員の大方は会社側の是正可能な理由によって離職している実態」を伝えたWork Instituteによる昨年の離職理由順が、(1)キャリアパス関連(2)従業員個人および家族の健康問題(3)柔軟でない勤務形態(4)経営陣の行為行動(5)総報酬への不満─と照らし合わせてみると、SHRMエコノミストが謂う「競争力のある報酬パッケージと長期的なコストの持続可能性のバランスをとるために、賃金上昇と医療費の動向を注意深く監視することが雇用主にとって有益」は当にその通りと言え、不確実性が依然として高い今は、従業員が働きやすい環境をこれまで以上に提供することを模索するべきです。
ニューヨーク Biz! 掲載「HR人事マネジメント Q&A」 第51回 『雇用情勢と今後の勤務形態(2)』
勝手ながら、8月23日号掲載予定であった前回のコラム掲載は急遽お休みさせていただきました。このことで複数の読者から連絡を戴いたのですが、先月のお休みは私事ゆえにあしからずお詫びします。
さて、7月26日号掲載の記事では米国の雇用情勢と今後の勤務形態の動きを取り上げました。曰く「平均的な就労者の実に85%が現在出社している」と…。そしてこの調査結果は世の中の働き方が変わってきたと感じていた大勢をして再考する機会となりました。
2020年3月中に出された外出禁止令にて就労者の多くが半ば強制的に在宅勤務形態となり、それが暫く続いた後、在宅勤務の方が出社するより効率的だしそもそもワークライフバランスに合致する働き方だと思うに至った人は多いでしょう。ですが、そのような職を得て就労場所や就労時間帯をコントロールできる人はそれなりに能力のある経験者あるいは専門家に限られます。現にこれら就労者たちは20年以前であろうと在宅勤務を行っていたか或いは行えたわけで、翻って就労形態がIT技術の進歩に影響されない大半の仕事(職務)は出社という元の鞘に収まりつつあります。
即ち、在宅勤務(リモートワーク)職に就きたければ、雇用分類のうちの「Exempt職」謂わゆる自身の仕事を自身の裁量で以ってコントロールしつつ遂行し得る職種に就くしかなく、但しそれらに就くにはその分野で経験を積むか最初から周囲が認める高い能力を発揮するしかないのです。(注:内職や副業としてなら「Non-exempt職」謂われる労働時間単位で報酬を得る在宅勤務の仕事は存在しますが、ここでは本業であることを前提にします)
ところで直近の雇用状況を見てみると、6月は予想外に増加したものの7月に減少そして続く8月も減少、このことは予期された「雇用減速」通りの動きとなっています。
その裏付け証拠として挙げられるのが、連邦政府職をレイオフされ失業した数十万人が職を探し続けているものの求人件数も雇用数自体も減っていること。他に、新規の失業保険申請件数が加速度的に増えており受給者たちが新たな仕事を見つけられずに苦労していること。更には、Indeedのデータによれば労働市場の冷え込みと移民政策の世界的な引き締めにより海外の求職者たちは米国を含む自国以外の仕事への応募意欲が低下していること。
Work Instituteは退職面談の分析を毎年行っており、これによる24年の離職理由は、(1)キャリアパス関連(2)従業員個人および家族の健康問題(3)柔軟でない勤務形態(4)経営陣の行為行動(5)総報酬への不満─の順になります。この分析結果から、従業員の大方は会社側の「予防が可能な理由」によって離職しており、人材獲得が比較的容易である大手企業を除く大抵の会社は「予防措置」を講じるべきだし講じることができる筈です。
ニューヨーク Biz! 掲載「HR人事マネジメント Q&A」 第50回 『雇用情勢と今後の勤務形態(1)』
前回=6月28日号掲載=までの直近4回の記事では「天候不良や災害によるオフィス臨時クローズ」を取り上げましたが、本年下半期に入って初めて寄稿する今回は少し話題を変え、米国での雇用情勢と今後の勤務形態の動きを共有したく思います。
先々月5月末、目を引くとある人事関連の記事がありました。それは同月4日の米国就労者18歳以上1600人を対象にした勤務形態に関する調査結果を扱ったもので、平均的な就労者の実に85%が現在は通勤(出社)しているとの興味深い内容でした。
5年前の2020年当時、各州政府によって3月中旬から外出禁止令が出されたことにより1カ月後には早くも米国就労者の52%が在宅勤務形態に切り替わり、それ以降も在宅勤務者が一定数増えたことを鑑みれば、今は19年当時の勤務形態への大きな揺り戻しが起きており、ここ数年のあいだ人気を博した在宅勤務は廃れてきたことになります。同調査は更に「月曜日から木曜日に出社する割合が最も高く、金曜日にはその割合が低下し、週末の出勤率はさらに顕著に低下する」「平均的な就労者の平日の出社日数は4・7日」であることも示しました。
即ち、パンデミック後期から会社は段階的に出勤(の強制)を再開したものの、当時誰もが思案したワークライフバランスへの想い、それに会社側の雇用維持の願いが合わさって辛うじてハイブリッド勤務形態を保っているのが今の状況だと言えますし、更には在宅勤務制度以前から存在したコアタイム制度やフレックスタイム制度これらを拡張した「緩めのフル出勤」の勤務形態に立ち戻り始めているのだと言えるかもしれません。
同記事は続けて「この(出勤者増加の)調査結果はAM/FMラジオにとっても間違いなく朗報であり、Share of Earリポートによれば、広告付きラジオの車中での聴取時間は18歳以上に絞れば86%に達している」とも綴っており、会社側視点に立てば勤務形態がかつての平時に戻ったことが窺える調査結果だと言えますが、但しもちろんこの数値は業界によっても左右されますし地域によっての偏りもあります。
では以上のことを踏まえ、とりわけこれまで通り従業員に出社を強制しなければならないホテル業や飲食業などのホスピタリティ業界をはじめ製造業や倉庫業にて今後更に検討されるであろうことを考察するに、平時は元より週末や祝日に一定数の従業員に出社して貰わねばならない状況下で、割増賃金やベネフィット上の付帯特典など如何に設定し直すかという課題が生じて来る筈です。
ニューヨーク Biz! 掲載「HR人事マネジメント Q&A」 第49回 『気象災害によるオフィスクローズ(4)』
今回も前回=5月24日号掲載=に続き「天候不良や災害によるオフィス臨時クローズ」を取り上げますが、前回は、会社がオフィスクローズを決定した当日、従業員側が容易に在宅勤務に変更できるなら誰しもがそうするし、それを以って会社側が従業員管理を出来ていると思い込んでいるとしたなら考えが甘い、更にはもし従業員が災害に遭っていたことを知らずにいたなら監督責任を問われかねない、故に日頃から体制整備しておくことが肝要であると締めくくりました。
この体制整備の意味するところは、いつでも労使間での連絡がつくこと即ち緊急時でも支障なく連絡が繋がること、それに通常の方法で連絡がつかない場合の代替連絡手段の確保はもちろん、更に言えば手順に則った避難訓練つまりは災害を想定したエバキュエーションドリルも実施しておくべきということです。
もう少し細かく説明しますと、OSHA(労働安全衛生局)は会社に対して火災訓練(ファイアドリル)は義務付けてはいませんが、効果的なEAP(エマージェンシーアクションプラン:緊急時行動計画)を維持する一環としての避難訓練実施を強く推奨しています。このEAPとは言葉の意味そのままに、火災や自然災害、化学物質の漏洩、武装した侵入者など、職場での緊急事態においてどのように会社が対応し、どのように従業員を安全に避難させるかを文書化したもので、OSHAにより一部に対しては作成が義務付けられ、大半の会社に対しては推奨されている安全対策なのです。
ところで上述の避難訓練に話を戻しますと、建物の種類・リスク度合・その他の要因によって異なりはするものの、従業員を守る備えとして訓練は少なくとも年1回、リスクの高い環境ならばより高い頻度で実施するべきであると前出OSHAは指導しています。加えて在宅勤務者に対しても「自宅での緊急時対応」を周知することが望まれ、これには安全ガイドブックの配布、避難マニュアルの整備、避難先の確保(下見)、(会社などとの)通信手段の確認などの自主点検が含まれます。
ご想像の通り、避難訓練を怠ったり災害で就労中の従業員や関係者に被害が出れば会社も管理責任を免れないかもしれず、従って、ビルに入居していればビル管理者主導の定期的な避難訓練の機会を活かせば良いでしょうが、自社ビルや独立したオフィスまたは敷地を有するなら行うべき定期訓練と位置づけてください。
ニューヨーク Biz! 掲載「HR人事マネジメント Q&A」 第48回 『気象災害によるオフィスクローズ(3)』
前々回つづく前回=4月26日号掲載=も「天候不良や災害によるオフィス臨時クローズ」を取り上げ、その末尾にて、オフィス臨時クローズポリシーと在宅勤務ポリシーは連動させておくかまたは予め整合性を持たせておくべき、さもないと人事管理に混乱をもたらすことになるからで、混乱の理由は会社が天候不良や災害発生当日に全従業員の出社停止を決めた際、総就労時間数で給与額が計算されるノンエグゼンプト従業員の立場では就労すなわち在宅勤務ができるか否かで当該月の報酬額が違ってくるためだと述べました。
大抵のケースではノンエグゼンプト従業員を対象に当該日には会社側が未使用の有給休暇(時間)を強制的に充てる権利を有することや未使用のシックリーブ(時間)を本人希望で使用できるようにするとのようなポリシーを設けていますが、従業員側としてはこれらを充てて有給時間をむざむざ消化させられるよりは就労したいでしょうし、既に有給休暇もシックリーブも使い果たした従業員なら猶更のこと、しれっとまたは抗ってでも在宅勤務を強行し働いた実績とする欲求が高まります。(注:従業員が就労したことを申告した場合、会社側はそれを無効にできない)
従ってたとえ有給時間を充てられる方針を有していてもポリシーにて当該日を在宅勤務とすることを従業員側の一存で決められるようになっているか或いはその判断部分が曖昧になっていれば誰しもが在宅勤務扱いに持ち込みたいわけです。もちろん一所懸命会社の為に働いてくれるかわいい従業員達に良かれと敢えてそのように仕向けている会社もありますが、人事管理の観点からみれば厚遇するべき方向性が違うと感じます。
能力あるまたは頑張る従業員らを厚遇するのは当たり前ですが、従業員がその日どこで働くのか直前まで把握できないのは明らかに管理ミスですし管理怠慢と映ります。また「今日は家で仕事するのだろう」と思っていたのに実は災害の被害に遭っていたとなれば監督不行届であり管理責任を問われることにもなり得ます。
従って冒頭に書いたように、オフィス臨時クローズポリシーと在宅勤務ポリシーを連動させた上で悪天候や災害が予想される場合、「本日(明日)は悪天候が予想されるためオフィスをクローズにします。在宅勤務が可能な従業員は在宅勤務を行ってください。在宅勤務が許可されていない従業員で有給休暇の使用を希望する者は速やかに申し出てください」などのアナウンスをしつつ、いつなんどきでも連絡が取れるよう日頃から体制整備しておくことが肝要となります。
ニューヨーク Biz! 掲載「HR人事マネジメント Q&A」 第47回 『気象災害によるオフィスクローズ(2)』
前回=3月22日号掲載=では「天候不良や災害によるオフィス臨時クローズ」について取り上げました。その前回は末尾にて、大抵は会社に備わっている筈の安全基準指南書や緊急事態マニュアルに常時目を通しておくことが如何に大切かを強調し、加えて出社停止の決定についても在宅勤務に切り替える判断についても必ずや会社側主導で判断するべきであり従業員側に委ねるべきではないと締めくくって筆を置きました。
この「会社側主導で判断するべき」は皆さんからすれば当り前のことのように思われるかもしれません。但し「在宅勤務ポリシー」を備えていないか或いは備えてはいるも「オフィス臨時クローズ」ポリシーと連動させていなければ天候不良に遭った日にルールに沿った判断ができず、その都度管理職者個人の判断に任せてしまうことになり、これが高じると判断基準からルールそれに人事管理上必須の「一貫性」すら失いかねません。そしてそれら希薄な判断の根拠に対していずれは従業員側からアンフェアあるいは差別だとクレームが入り、物々しい騒ぎにまで発展してしまう可能性も出てきます。
まだあります。在宅勤務に切り替える判断を従業員側に委ねてしまうなら、会社が定めた出社(通勤)ポリシーの崩壊を導いたり人事考課時のアテンダンス(出勤欠勤評価)の採点そのものにも影響を与えることになるでしょうし、それに加えて出勤の有無の確認も誰が何処にいるかも把握できずに人事管理の根幹を欠損させる可能性すらあります。
その他にも従業員タイプであるエグゼンプトとノンエグゼンプトの区分問題にも絡んできます。何故なら、専門職や管理職が属するエグゼンプト従業員区分とは異なり、就労時間数で賃金が計算されるノンエグゼンプト従業員だと、会社が出社停止を決定した日で尚且つ在宅勤務を認めないケースでは、各従業員の未使用有給休暇時間を強制的に充てるか否か、未使用のシックリーブ時間を本人希望で充てられるようにするか否か、についてのポリシーも予め定めておかねば従業員をしてオフィスクローズ時の混乱に拍車がかかるだけだからです。
オフィス臨時クローズと在宅勤務それぞれのポリシーに絡んではここに挙げた以上の周辺ポリシーにも波及する恐れがありますが、続きは次回に。
ニューヨーク Biz! 掲載「HR人事マネジメント Q&A」 第46回 『気象災害によるオフィスクローズ(1)』
これまで3カ月3回に亘って取り上げたコラム内容「昇給圧力」にまつわる解説を休止し、今回からは「天候不良や災害によるオフィス臨時クローズ」について述べます。
東部や中西部ではもっぱら大寒波到来時や大雪警報発令時、南部ではもっぱらハリケーンや竜巻の襲来時、会社幹部には従業員たちを普段通り出社させるか自宅待機させるかを「大抵は早朝までに」決めなければならない喫緊案件が生じます。そんな中、今年は例年の気象問題以外に1月はロサンゼルス北東部で広範囲の山火事が2月はデトロイト南西部で水道管破裂から一夜にして一帯が氷漬けとなる災害が起きたことで相談件数が突出して増えたことから焦眉の課題と思い急遽取り上げることにしました。
ロサンゼルス山火事では20万人以上がデトロイト氷漬けでは400人が避難したとのことで被災人数に多寡はあれど仮に皆さんの会社に勤める従業員がこのような災害に遭ったのであれば何らかの決定を下さなければならず、またそれが人身に影響を及ぼしそうな事象であれば猶のこと待ったなしの決断を要します。
このような緊急事態の時のために皆さんの会社にもマニュアルやルールが備わっていま…いる筈です。大抵は従業員ハンドブックの中に盛り込まれていますが、災害の起こり易い地域や企業規模や業種いかんでは安全基準指南書や緊急事態マニュアルを備えているところもあります。けれども肝心の幹部社員たちがマニュアルがあることを忘れ或いは未読ゆえに慌てふためいてしまえば従業員たちに二次災害や二次被害を及ぼしてしまうかもしれず、従ってもしもの時を想定し普段からマニュアルに目を通しておくことが切に重要になります。
ところで2019年以前は在宅勤務者自体が少なく天候不良や災害時にオフィスをクローズするかいつも通りに出社させるかの選択に決断が要ったものですが、それは出社停止がイコール業務停止だったからです。それが最近は在宅勤務者や在宅勤務経験者が多いことから出社停止がイコール業務停止とはならず、出社してしか職務遂行できない就労者を除き出社停止の決定イコール在宅勤務に自動的に切り替わることも少なくありません。但しこの判断および決定は従業員側に委ねるのではなく必ずや会社側が為さねばなりません。続きは次回。
ニューヨーク Biz! 掲載「HR人事マネジメント Q&A」 第45回 『昇給圧力(3)』
前回=1月25日号掲載=の記事にて「Pay Transparency Act(賃金透明法)を施行する州では求人募集要項に報酬内容の記載を義務付けたことから企業間の応募者数の多寡がはっきり現れることになる」と締めくくりました。つまり人気ポジションか不人気ポジションかを求職者がきっちり線引きしてしまう為、これまで以上に不人気ポジションへの昇給圧力が高まるだろうことを説いたのでした。
即ち、これまでの求人情報あるいは募集情報だと例えば「給与は4万ドルから7万ドルの間で経験と能力次第」などと給与レンジをあまりに広くざっくり書くか或いは敢えて給与額を無記載にしたあと面接時に報酬額を決めていたのが今後はそうはいかなくなるということです。また給与額に同じくボーナスやインセンティブおよびベネフィットなど追加報酬や福利厚生も「出るか出ないかは業績次第・本人のやる気次第」などの曖昧な売り文句も慎まねばならなくなってきたということです。ならば人材紹介会社を通して募集すれば良いかと考えるでしょうが、そのような第三者を介した募集に際しても同法は適用対象になります。
同法の細かなルールや適用範囲は会社規模や地域により異なりはしますが本年初めからイリノイ州とミネソタ州も加わって既に多くの州(および幾つかの自治体)が施行しており、また別の数州も本年後半からの施行開始を検討する中、この米国全域での賃金透明法導入の動きは止まらないものと考えます。
同法はまた外に向けての求人募集に限らず社内にも影響を及ぼします。何故なら社外募集に限らずジョブポスティングと呼ばれる社内募集時にも給与額を開示しなければならないとする州が多いからであり、特筆すべきはカリフォルニア州の「募集時に限らず従業員が自身のレンジを問い合わせてきた場合も開示する必要あり」と個々の従業員向けに給与レンジの開示義務すら課している点です。
但し悲観することはありません。自社内で予め「魅力的な」給与額を確立しておけばよく、しかし一方で出張経費や諸経費を抑え過ぎるなどして従業員のやる気を削がないようにも努めねばなりません。もし他と比べて遜色ない報酬を提供するのが難しいなら、他社にはない別の有用なところをアピールしましょう。つまりはこれを機に、たとえ小規模の会社であろうとこの昇給圧力問題に適切な施策を打ち、会社自体を魅力的に思わせるよう転換させるべき時期なのです。
ニューヨーク Biz! 掲載「HR人事マネジメント Q&A」 第44回 『昇給圧力(2)』
このコラムをご覧の皆さま、遅れ馳せながら本年もどうか宜しくお願い致します。皆さまにおかれましては人事・雇用問題に関して大過なき1年となりますよう謹んでお祈り申し上げます。
本筋に入りますが前回=12月21日号掲載=の記事では「公正労働基準法の Salary Testおよび諸州のMinimum wageの独自引き上げが昇給圧力の二大要因の一つ」と説きました。そして今回は昇給圧力のもう一つの大要因と考えるPay Transparency Actについての序説を述べたいと思います。
米国の現在の景気と今後の動向に絡んで、米労働統計局が1月15日に発表したところによれば、昨年12月の消費者物価指数は9月・10月・11月の3カ月間より高く前年比2.9%(季節調整前)であり、尚且つこれら4カ月は連続で前年比(2023年)を上回ったようです。勿論この数値は2021~22年のインフレ急騰時から比べれば低くはあるものの依然として労働者に大きな影響を与えており、1000人超の国内労働者を対象にした昨年末実施の満足度調査によれば43%が「インフレが個人の財務状況に極度に或いは重大な影響を及ぼしている」と回答(前者が18%・後者が25%)。逆に個人の財務状況に影響なしは僅か5%だったとのこと。つまり仮にこの年末年始中に昇給があったとしても労働者の大半が物価高騰に追い付けるほど給金を得ていない状況下にあるということです。
ところで物価が上がれば係るビジネス経費も高くなるは必定。米国税庁は今年の標準マイレージレートを3セント引き上げて1マイルあたり70セントと発表。これは多くの企業が採用している業務遂行に際して私有車を用いた場合に走行距離分を経費名目で従業員に払い戻す方法の一つなのですが、かつては数年に一度の間隔で上がっていた同レートがここ数年は毎年上がっており、加えて国内出張に限ってみても従業員に支払う食費や宿泊代など日当の方も右肩上がりに跳ね上がっています。
求人数の方は12月の新規雇用数が25万6000件にも達し6カ月ぶりの高水準だったことから同月の失業率は4.1%にまで落ちました。それに仕事を辞める人が減ったことも相まって退職者数はパンデミック時のピーク以来最低にまで下がった由。先月(昨年末)がこのような数値だったことから2025年の雇用(数)については今のところ楽観的にみられています。
そんなビジネス経費が跳ね上がり且つ雇用が楽観視される中、件のPay Transparency Act施行済み州および施行し始める州では企業が出す求人募集要項に記載される給与額次第で応募数の多寡がはっきりします。オファーする給与額如何で企業の採用が極端に左右されることから、これまで低めの給料・低めの経費で賄ってきた企業にとって同法がかなりの昇給圧力になるどころかいよいよ人手不足に陥ることを覚悟しなければならなくなるでしょう。
ニューヨーク Biz! 掲載「HR人事マネジメント Q&A」 第43回 『昇給圧力(1)』
前々回=10月26日号掲載=の記事で「昇給圧力の要因は今年に限ればFLSA Salary TestやPay Transparency Actが強く作用している」と説き、前回=11月23日号掲載=の記事にてその根拠を解説する予定が景気動向に紙面を割き過ぎたことから今号へと先延ばししました。
一つ目のFLSA Salary Testとは、FLSA(公正労働基準法)上で残業代支払い対象となるNon-exempt従業員と片や残業代支払いを免れるExempt従業員を分けるためのチェック項目のうちの一つであり、即ちExempt従業員たるに支払われるべき給与額最低値を定めた境界ラインを指します。私がこれを昇給圧力の要因に挙げた理由は今春にこの最低値を米労働省が一挙に引き上げる行為に出たからです。この計画は第1弾として今年7月と来年1月の2段階式に引き上げられるもので、既に1段階目の7月の引き上げを済ませ2段階目となる来年1月の引き上げ要求を見据え各社が再び給与調整を行おうとしていたのが今年末のまさに今なのです。(ちなみに第2弾は以後3年毎に引き上げていく予定下にありました)
ところがそこに飛び込んで来たのがテキサス州東部地区連邦地方裁判所をして米労働省のFLSA給与基準値引上げ要求そのものを無効とする11月15日の判決結果のニュースで、来年1月時はおろか今年7月時の引き上げまでも無効化するものでした。それ故あちこちの会社でただいま混乱が起きています。謂わば7月時に続いて引き上げられる筈の次の給与基準値に迄また給料が上がると見込んでいた従業員たちをして落胆せしめたからであり、対する雇用主側も「そんな予定はなかった」と今更とぼけることすら出来ずにいる為です。
この無効化のニュースは前回の11月23日号掲載のコラムを送稿した直後に発表されたことから私自身も驚かされましたが、但し過去これまでにもSalary Testの引き上げ要求は何度となく俎上に上がっており、今回無効化されたとはいえ昇給圧力の一つとして今後も強く作用していくことに変わりありません。
加えて連邦のMinimum wageの上昇を待てず引き上げを独自に行って来ている東西両海岸をはじめとする諸州では今や最低賃金額が15ドル前後にまでなり、対する連邦政府の定める7.25ドルに依然として倣っている諸州との間で給与額で二極化が起きており、連邦法であるFLSA給与基準値引上げ要求の無効化がこれに拍車をかけるかもしれません。
生活費を考慮するにせよ、この流れは先の大統領選挙で起きた国を二分化させた動きにも類しますが、来年早々から共和党トランプ政権になることでこの昇給トレンドや給与格差が少しは収まるのか、はたまたより上昇を続けるのか、如何なる方向に展開するかは暫く様子見するより他ありません。
