ニューヨーク Biz! 掲載「HR人事マネジメント Q&A」 第16回 『雇用維持と採用促進策』
ところで遡ること数カ月前、台湾の半導体製造大手企業であるTSMCを日本が官民一体となって後押しし、同社が熊本県に製造拠点を設けることになったというニュースが出たのを皆さんもご覧になったと思いますが、幾つかの記事が報じたところによれば、同工場が2024年の工場稼働に向け「新規採用人数が1200人・初任給が28万円」で採用活動を始めたようで、これは日本経済にとってかなりスケールの大きな話だと感じました。
唯、同社の進出に九州経済界が期待を寄せる一方で、地元産業界の間では同社の進出により人材獲得が一段と難しくなるとの懸念が広がっているとの話は正しくその通りだと思います。これは日本に先んじて米国でも同じことが起きており、郊外または僻村にアマゾンの倉庫が設けられ、周囲の時給が一気に跳ね上がる現象が米国内の至るところで起きているのはご承知の通りです。
製造業種を除き、これまでの在米日系企業は歴史的にみても「低めの給与、高いボーナス、手厚いベネフィット、厳しくないノルマ」という体の企業が多かったのですが、健康保険代の高騰により従業員の拠出額を上げざる得ない企業が増えたこともあり、ベネフィットについては日系企業の優位性は以前より下がっている…それどころか米系企業の中には奨学金ローンの肩代わりやフルリモートワークを打ち出すところも現れるなど…益々不利な状況になっていっているのが実情です。
またボーナスは基本給以外の変動報酬であるため、雇用主側としては報酬の調整がし易いものの確実に得ることのできるインセンティブプログラムでない限り、求職者にすれば「企業の利益が良かった場合のおまけだろう」という見方が強くあります。これは人材募集サイトの検索条件が専らベースサラリーが主であるため、「基本給は低いがボーナスが良い」とのような日系企業にありがちな募集条件だと、求職者をしてそもそもの検索絞り込み段階で弾いてしまうことが多く、これらを改めない限り、いつになっても人員募集の時点での日系企業の優位性が高まることはありません。
あと、ベースサラリーについて弊社では過去に「小規模企業は市場平均給与値の25%値から中央値の間に収まれば妥当」と説いてはきたのですが、昨今の状況を鑑みるに出来る限り中央値に近づけるかそれ以上にまで引き上げる必要があります。即ち、募集段階で魅力的に映らないボーナス額の比率を下げ、その分を基本給与額に上乗せするなどの対策を検討するべきで状況にあります。
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企業概況ニュース 掲載 「人事・備忘録」 第七回 『加速する賃金上昇傾向と人手不足問題』
前回4月号の「人事・備忘録」では、従業員や求職者に向かって「なぜ接種しないのか?」と質す行為にはリスクが生じるものの、一方で「ワクチン接種済みですか?」と尋ねることになんら問題はないこと。ただし、それら対象者に接種記録(証明カードやワクチンパスポート等)を提示するよう追加で求めるのはこれまたリスクを生む行為となり、理由は感染者はADA(米国障がい者法)の下では保護される立場にあり、別の傷病を負った者と同じように扱わねばならない為だとお伝えしました。かつ、雇用主側は最大の取り組みとして、Covid-19に関わる全てを盛り込んだ「企業方針」を、通常の就業規則とは別に設けておく必要があるということも念入りにお伝えしました。
ところで、徐々に減っていた感染者数がここのところ再び増加に転じているのが気になるところですが、これ以外にも、ウクライナ侵攻やそれに伴うロシア国債のデフォルト危機および中国の長期に亘る上海ロックダウン(都市封鎖)等々が、コロナ禍と同時に始まった製造に携わる労働人口の大幅下落や物流の依然とした滞りが世界規模で回復し切っていないところに追い討ちをかけています。
他にもまだあります。これらの事象による歴史的インフレや連邦準備理事会(FRB)による政策金利の引き上げ(利上げ)とが相俟って、経済面では米国や日本株の暴落、さらに円安が起こるなど、パンデミックに突入した2020年の時以上に、今後、従業員やその家族など人々の暮らし向きが心配されます。
このような現代人がかつて遭遇したことのない世界が進行する中、直近の米国の物価上昇率が昨年比で2月は7.9%、3月は8.5%、4月は8.3%と米政府機関により発表され、とりわけ3月の数値は1981年12月以来の最大の上昇率となり、いわんや「賃金上昇率の方は推して知るべし」です。
多くの在米日系企業がこのような賃金上昇の圧迫を受ける中、リモートワークに慣れ親しんだ従業員たちはというと、会社からの出勤再開の要請には前向きになれず、さりとて出勤を強制すれば退職も辞さない構えと聞きます。都市部ではリモートワークが成立する職務が多いのでまだ対処が可能であるものの、対する地方では工場勤務が専らで、現時点で従業員の補充に四苦八苦し、日本から出向してきた駐在員までもが3交代制の勤務シフトに加わる事態になっており、業種問わず、薄氷を踏むが如く日々の人事運営をしている状態ですが、渦中にあるのはやはり「人手不足」の問題です。今回の「人手不足」がいつ収まっていくのかが誰もわからない今日、今後はこの人手不足と絡めつつ企業の人事運営に焦点を当てていきたいと思います。
ニューヨーク Biz! 掲載 「HR人事マネジメント Q&A」 第15回 『人口移動の要因』
前回=6月25日号掲載=は、ただいま起きている米国内地域別人口の変化について触れ、大都市圏では都心近くから郊外への人口移動が顕著になっていること、また州別でみると、カリフォルニア州・ニューヨーク州・イリノイ州が人口流出トップ3州であり、対する人口流入トップ3州がフロリダ州・テキサス州・アリゾナ州であることをお伝えしました。
ではそもそも、なぜ北部あるいは都市圏から人口が流出し、南部諸州への移入の傾向が見てとれるのか? もちろん気候や生活費が要因なのも大きく占めるでしょうが、この原因を私なりに考えると産業革命時代まで遡る必要があります。
ここアメリカでの18世紀の終わりから20世紀初頭の間に起こった産業革命の時代、その産業勃興期に時同じくして起こり始めたのが労働運動。一時期は世界恐慌時に雇用を安定させる手段として重宝されたりもするのですが、しかし同運動が全米に広がるに連れて労働組合が強い力を持ち始め、労働運動それ自体が過激なストライキを打ったり暴力的になったりと負の影響を与え出したことは皆さんもご存知の通りです。とにかく先鋭化するこの労働運動に向けて一部諸州ではRight to work法を策定し対抗し始めたのですが、この同法が人口移動の要因の一つであると私は捉えています。
Right to work法は日本語では「労働権法」とも「働く権利法」とも訳せますが、現時点ではおよそ28州で可決されています。同法を一括りに説明すれば「労働組合に強制加入させられずに働く(労働者の)権利」です。
早くから工業が発展し、古くから自動車製造工場などの産業が多かった北部地域が同法を施行し始めたのは、例えばミシガン州は2012年、インディアナ州やウィスコンシン州が15年、ケンタッキー州が17年と割と最近になってからであり、冒頭で取り上げた人口流出トップ3州であるニューヨーク州、イリノイ州、カリフォルニア州のほか、ニュージャージー州、ペンシルベニア州、オハイオ州、コロラド州、オレゴン州、ワシントン州などでは今以て施行されていません。対する南部諸州では、人口流入トップ3州のフロリダ州とアリゾナ州が1944年に施行、テキサス州が93年、その他にテネシー州・アーカンソー州・ジョージア州が47年、アラバマ州が53年、ミシシッピー州が54年と、テキサス州を抜かせば凡そ半世紀前には既に可決し施行されています。
比較的最近になって同法を施行し始めた北部諸州ですが、企業誘致を考えれば当然ながら出遅れた感があり、対する南部諸州ではかなり以前に同法を施行していることから、組合活動は振るわず、労働運動そのものも起こりづらく、また割高な賃金を払う必要もない。このようなことから製造業が多く進出しまた引き続きそのような風土ゆえに、特別な事情がない限りはいずれの企業も今後の工場の立地先として先ずは南部地域を候補に挙げるであろうことは明らかです。
このような労使の歴史ならびに南部諸州が今以て緩い労働・雇用関連法であることから、サプライヤー企業も周辺地域に入り、多くの雇用が生まれる体制になっていくのと相まって人々は自ずと南を目指すのではないかと考えます。
ニューヨーク Biz! 掲載「HR人事マネジメント Q&A」 第14回 『雇用維持と採用促進策(データ)』
前回=5月28日号掲載=では、ここ最近は労働者が様々な理由で就労先を離れる事実から、多くの企業で起きている人手不足問題の現状を取り上げ、今号以降は労働者を如何に維持確保するかについて、企業の間で試みられているアイデアを紹介していく旨を予告しましたが、それらを取り上げる前に先ずは今起こっている事実、即ち、米国内の地域別人口の変遷についての実態に触れたいと思います。
本年3月24日付で米国国勢調査局(U.S. Census Bureau)が発表した推定によれば、2020年7月1日から21年6月30日までの米国内の各「郡(County)」の3分の2以上で、出生数よりも多くの死者数が記録され、そのような群は前年同期55.5%から73.1%に増加したとのこと。しかも21年11月17日付で米国内各社が一斉に報道していましたが、米国では薬物過剰摂取による死亡者数が初めて10万人を超えたとのこと。
この数値だけ見れば米国内各地において総じて「人口減」が起きていると誰もが考えがちですが事実はそうではなく、とりわけ特定の小さな郡では逆に人口増が顕著になっており、実に郡全体のうちの58.0%がこの動きに該当するようです。
これは多くの場合、国内における州間または郡間の移住が主な原因で且つ人口減を相殺するに十分な人口流入があったことを意味し、同局をして「最新のデータで、大都市圏からの人口流出が明らかになった」と斯く言うほど。同データが20年7月から21年6月の期間のものであることを考えればコロナ禍が作用したのは必至です。
では人口減が顕著である都市圏を同局が出す下記のランク表から数字だけ引用する形で見てみましょう。
このランク表からも大都市圏から近郊の小さな郡に人口が移動していることは一目瞭然ですが、同局は続けて、19年7月1日から20年6月30日までの南部地域への国内移住が米国内では最大の動きともいっています。
American Enterprise Instituteが出した20年4月から21年7月までのデータから人口流入の多いトップ10地域を州別順位で記しますと、1位がフロリダ州、2位がテキサス州、その後にアリゾナ州、ノースカロライナ州、サウスカロライナ州、テネシー州、ジョージア州、アイダホ州、ユタ州、ネバダ州が続きます。
対する人口流出の多いトップ10地域は、1位がカリフォルニア州、2位がニューヨーク州、その後にイリノイ州、マサチューセッツ州、ニュージャージー州、ルイジアナ州、メリーランド州、ハワイ州、ミネソタ州、ミシガン州が続きます。
幾つか補足しておきますと、ルイジアナ州は人気の南部地域であるにもかかわらず昔から仕事数が少なく、ここ2年ほどは近隣州のテキサス州やミシシッピ州に流れているようです。あと、人口流入のトップ10入りを果たしているアリゾナ州やネバダ州ですが、それら州でさえもフェニックスやラスベガスなど都市圏からの人口流出が見てとれます。このことからも総じて都市圏から近郊の郡に人口が移動していることがわかります。
企業概況ニュース 掲載 「人事・備忘録」 第六回 『ワクチン接種しない理由を問うことのリスク』
ただいま全米中の企業から「ワクチンを接種しない従業員に対して理由を質して良いか」との問い合わせが多く寄せられてきており、しかしながら、この「なぜ接種しないのか?」との質問をすることは実はかなりのリスクを生む事になる旨を、前回2月号の「人事・備忘録」でお伝えしました。
誤解しないで頂きたいのは、従業員や求職者に向かって「なぜ接種しないのか?」と尋ねる行為はリスクを帯びるものの、一方で「ワクチン接種済みですか?」と尋ねることになんら問題はなく、且つ出社してくる従業員の感染の有無を調べるために例えば毎朝出社時にスクリーニングテストを実施することもできます。
それはEEOC(雇用機会均等委員会)が、「COVID-19を伝染性の高い『直接の脅威(direct threat)』とみなし、雇用主は従業員の健康と職場保全に責任があるとの見解の下、ADA(米国障がい者法)の手順を守っている限りテストを行うのは可能」と言明していることも後押ししていますし、実際にニューヨーク市では「雇用主はワクチン未接種の従業員を職場に出社することを認めてはならない」との議会法案を昨年12月27日に可決していることからも窺えます。
但し、「ワクチン接種済みですか?」とは尋ねることが出来ても、従業員に接種記録(証明カードやワクチンパスポート等)を提示させる行為となると話は変わってきます。即ち、接種記録を求めることは、医療情報を求めるに等しく守秘対象になるためです。従って、例えば面接を受けに来社した求職者に対する場合などは、ワクチン接種の有無だけ尋ねるに留め、いざ採用することになれば雇用初日に至ってようやく接種記録を求めるなどの手順が認められることになります。
ここで「手順」と書きましたが、要は企業は、ワクチン接種の有無、自社で(簡易)検査を実施するか否か、検査を拒否する者が現れた場合や検査で陽性だった従業員が現れた場合の対処法、陰性結果になるも症状がみられる従業員への対処法、加えて、自宅でテストキットを使った検査で陽性だと報告して来た従業員への対処法、そのテストキット商品自体の信頼性あるいは推奨できるキットの紹介、などCOVID-19に関わる全てを盛り込んだ「企業方針」を設けておく必要があるということです。
一方で、リモートワークを続けたがる従業員を出社させるわけですから、パンデミック初期と変わらぬ依然とした厳しい衛生管理が企業側に求められますが、こちらも「衛生管理方針」を設け且つその通りに実施し、衛生管理が万全ゆえ出社しても大丈夫なことを従業員に知らしめる必要もあります。
上記のことを踏まえて冒頭の「なぜ接種しないのか?」の質問がどうしてリスクを生むことになるかについて答えますと、COVID-19は「直接の脅威」ではあるものの、但し感染してしまった者たちは、他の病気に罹ったり怪我を負った者と同様にADAの下で保護される立場にあり、翻って、接種を拒否する者はそれぞれ宗教上や身体的理由を持ち、それらは同じく保護されるべき従業員や求職者たちの権利であることから、接種を強要したり接種しない理由を問うことはそれに反することになるためです。
ニューヨーク Biz! 掲載「HR人事マネジメント Q&A」 第13回 『雇用維持と採用促進策(序文)』
これまで地球上の限定された地域で大なり小なり類似の事象はあったものの2020年春を基点に起きたコロナ禍はかつて世界が経験したことのない未曽有の被害を全人類にもたらしました。しかも後進国や発展途上国ばかりではなく先進国の人々にも等しく同時に影響を及ぼしたことが今回の特異な点でした。
急ぎワクチンが開発され、優先的に確保できた資金力のある国々と後回しになった資金力の乏しい国々との間に不平等さはありましたが、それを解消するべくWHOをはじめとする世界中の各種機関が公平な配分に努めました。そして、ただいま新型コロナウイルス感染症の治療薬のさらなる開発が急がれています。
このように世界が一変…先進国の人々にも等しく影響を及ぼした…中、多くの人々は生活スタイルとりわけ「生きていく糧」を得る為の勤労すなわち働き方を根本から変えざるを得なくなったわけです。
第1次産業に従事する人達は先進国後進国に関わらず地方で密集せずに働く為それほどの影響を被らずに済んだところもありますが、対する都市部は人が密集し易いため、第2次・第3次産業に従事する人々に与えた影響は殊の外大きく、また、たとえ産業形態や業種によらずとも子供達が通学しているならばそれがリモート授業に切り替わったことで大半の親達も通勤すること自体が困難になりました。
以上のような背景により、前回=4月23日号掲載=までのおよそ1年間はコロナ禍により働き方ががらりと変わった或いは変えざるを得なかったことから、「ワーク・スケジュールについて」および「ワークスタイルについて」と題し、今や当たり前となった感すらある従業員のリモートワークに絡み、主に雇用主側に向けて種々の注意事項をお伝えしてきました。
とまれ喫緊の問題は多くの企業で起きている人手不足です。せっかくコロナ禍で一変した生活が漸く落ち着きを取り戻してきた今日にあって但し経済循環が依然として滞り、それにロシアのウクライナ軍事侵攻に端を発した東西対立再燃が加わり、物価高騰も収まる兆しすらなく既存の世界ではなくなってしまっていく中、より高い給与を得るべく転職を試みる者、復学する者、新たな技術の習得に努める者、キャリア自体を変更しようとする者、または家族の介護に集中しようとする者、労働から離れる者など、様々な行動が見られます。
次回以降は、労働者を如何に維持確保するかについて、企業の間で試みられている幾つかのアイデアを順々に紹介していく予定です。
ニューヨーク Biz! 掲載「HR人事マネジメント Q&A」 第12回 『在宅勤務で生じる余計な出費は経費として認められるか(3)』
前回=3月26日号掲載=の記事で、従業員が在宅勤務をする上で発生する出費が経費として認められるかについては、会社側は「ビジネス上の理由」から一貫性を以って経費対象の線引きをするべきだとお伝えしました。また、会社側が負担するべき基準を設ける上でのポイントは「合理的な観点」だとも書きました。「ビジネス上の理由」と「合理的な観点」は一見して同じ意味で捉えるかもしれませんが、「ビジネス上の理由」の方はビジネスを行う上での要・不要を基に線引きするものであるのに対し、「合理的な観点」の方は冷徹に判断するならば必ずしも経費対象にしなくて良いとの意味になります。
例えば職務遂行のための机や椅子は「ビジネス上の理由」から必要なものではあるものの、仕事以外の目的…たとえば生活する上でまたは趣味のため…でも使われるものといえ、そこに「合理的な観点」を働かせた場合、会社側が全額負担する必要がない(或いは部分負担さえしなくても良い)アイテムといえます。また携帯電話料金やWi─Fi代は、職務遂行において不可欠ゆえ「ビジネス上の理由」から払ってあげるべきではあるものの私用でも使われる故に、就労時間8時間分は即ち1日の3分の1に相当するため、「合理的な観点」から基本料金の30~50%を払い戻すと定めても良いわけです。
あと電気代は日中も家にいることで出勤していた時よりも確かに上がりはしますが、さすがにここに及んでまで負担してあげるならば、在宅勤務は旨味があり過ぎ、週に数回の出社でさえあれこれ理由をつけて出て来ない従業員も現れる筈。そうなれば企業の営業活動に支障さえ来しかねず、ならば通勤の負担分を何らかの形で補填してまでも出社を促す方向に考えを転じる企業も出てくるでしょうし、或いは正反対に電気代を払ってあげてでも雇用確保に努めたいと思う企業も出てくるなど、企業の現状によって対応が左右に大きく振れることになるでしょう。
ではプリンターはどうか? 前々回=2月26日号掲載=の記事で「私有車・携帯電話・PC及び周辺機器は既にコロナ禍以前よりそれらの大半が経費支払い対象にされている」と書きましたが、書類を印刷することが頻繁ならばもちろん従業員に購入させるか会社が貸与するべきです。但し最近はデータベースを共有化することにおいてオンライン上でセキュリティーを強化するべく、クラウド上で書類作成など全てを行わせ、クラウドシステムで作成された書類や文書などをダウンロード出来ないように設定しているところや、USBさえ使用不可に設定している企業も増えてきています。このようにセキュリティー強化の観点に立てば、プリンターを購入させてまで仕事目的でプリントアウトするべき類のものがあるのかないのか、こちらは今一度考察するべきでしょう。
ニューヨーク Biz! 掲載「HR人事マネジメント Q&A」 第11回 『在宅勤務で生じる余計な出費は経費として認められるか(2)』
今回は前回=2月26日号掲載=の記事の続きとして、在宅勤務で生じた出費は経費として認められるかについて解説します。
頓にパンデミック後に巷で多くみられる光景として「普段出勤する時間に家にいることで余計に電気代がかかる。電気代は経費扱いにすべきだ」とか「やっとさえ狭い屋内に仕事スペースを設けるのは難しい。少しでも快適に職務を行う上で機能的でこじんまりした机と疲れにくい椅子を買いたいので、その分を経費として認めて下さい」などと従業員側が会社に対して言ってきたならば、会社は内心「何を言ってる!? 逆に食費やガソリン代の出費が抑えられているではないか!」と返したくなるのは人間心理としては道理でしょうし、皆さんが会社側の立場でもそう思うでしょう。
先ずは経費支払い是非の答えに触れますが、前回記事でも触れましたように「雇用主は従業員の業務遂行上必要な経費の負担を行うべき」と経費支払いについての基準を法制化済みの州が幾つも存在し、またそのようなトレンドゆえ、会社が、在宅勤務を行う従業員の一切の経費の負担に応じないというのはナンセンスだと言えることです。
従って、仕事を行う上で発生した経費を負担することは必須と言えますが、但しそこから踏み込んで経費対象とする線引きをどこに置くかは企業側の判断が問われる場面です。即ち、余りに厳しく経費対象の選別をしてしまうと、今度は在宅勤務を継続できると喜んでいる従業員のやる気に水を差す事になってしまいますし、そこから更に失望されて職探しを始められてしまう事にもなり兼ねない。よって、そこは法や横並びで判断するよりも会社側の情状なり従業員を繋ぎとめる保留策によるところの判断に期待したいところです。
ところで前回の記事の結びで私は「職務遂行に必要な机や椅子などのビジネス家具類」…単に家具類とは書かず…敢えて「ビジネス家具類」としました。繰り返しになりますが、幾つかの州では「雇用主は業務遂行上必要な経費の負担を行うべき」とし、更に諸州では「雇用主は合理的な観点で従業員の経費を管理するよう取り決めた方針を設けるべき」だとお知らせしましたが、ポイントは「負担を行うべき」や「合理的な観点」の部分です。これらは経費として認めるべき判断基準を明瞭に定めていないということであり、会社側の事情や判断によって細部がまちまちな解釈が可能であることを表していますが、少なくとも「ビジネス家具類」と定めるだけで、他の生活用家具とは一線を引くことができますし、またたとえビジネス家具類である机や椅子であっても、仕事以外の目的で使用できるものであれば、必ずしも会社側が全額負担する必要もありません。
ニューヨーク Biz! 掲載「HR人事マネジメント Q&A」 第10回 『在宅勤務で生じる余計な出費は経費として認められるか(1)』
前回=1月29日号掲載=では、従業員が今より生活費の安い地域に移ることを理由に際して給与を減額するならば、高い地域に移る際に増額しなければならないこと、また、遠方に引っ越すことで遂行できない任務が生まれその職務内容の変化を理由に減給するならば、会社近くに留まり会社でしか出来ない職務がある時のみ出社してくる従業員に対しては、それが理由の減給措置は賃金同一法に抵触する可能性があることをお伝えしました。要は給与額の多寡は「正当なビジネス上の理由」を掲げる会社側にその決定権があるものの、その「ビジネス上の理由」でさえ一貫性に欠けるところとなれば、大義名分たりえず深刻な問題に発展してもおかしくないということです。
今回は少し話題を変え、では遠方にしろ通勤可能圏にしろ、リモートワークを行う従業員たちが会社以外の場所で働く場合に発生する業務遂行に伴う金銭面での支出について触れたいと思います。
皆さんは、リモートワークを行う上で、例えば電話やWi─Fiなどの通信料金、PCなどの電子機器・照明・暖房などにかかる電気代、仕事机・椅子・キャビネットなどのビジネス家具代、これら家で仕事をする上で生じる余計な出費の大半は経費扱いになると思いますか? 申告すれば会社は認めてくれるでしょうか?
これに答えますと、カリフォルニア州は「雇用主は従業員の業務遂行上必要な経費の負担を行うべき」と明確に打ち出し既に法制化済みであり、イリノイ州、モンタナ州、ニューハンプシャー州、ノースダコタ州、サウスダコタ州など諸州にも同様の償還法が存在します。加えて、イリノイ州をはじめとする一部の州では、雇用主に対して、合理的な観点で従業員の経費を管理するよう取り決めた方針を設け、その方針を広く従業員に知らしめるよう文書化することまで勧めています。
従業員を自宅勤務にさせることで、会社はどこまでの費用を負担するべきか?は引き続き在米日系企業が悩んでいる点の一つですが、但しコロナ禍以前より既に私有車・携帯電話・PC及び周辺機器はそれら大半が経費支払い対象として必須扱いにされて今日に至ります。では普段出勤する時間に家にいることで余計にかかる電気代および職務遂行に必要な机や椅子などのビジネス家具類はどうでしょうか?
次回に続きます。
ニューヨーク Biz! 掲載「HR人事マネジメント Q&A」 第9回 『減額措置は賃金同一法に抵触しないように注意を払うべき』
前回=12月18日号掲載=では、遠方に移る従業員への待遇および大手企業は如何なる方針を導入したかについて触れ、それら従業員を減給するならばThe Equal Pay Act(以下「賃金同一法」)に抵触しないことが肝要だとお伝えしました。
復唱しておきたいのは、そもそも在宅勤務あるいは遠方での勤務など所謂リモートワークを認めるかどうかの決定権はあくまでも企業側にあるという事です。ワクチン接種を原則義務化し全日出勤再開の方向に動いている企業もあれば、今のまま在宅勤務とのハイブリッド方式を続ける企業もありますが、大手優良企業と言われるところは全日出勤再開に向けて強気の姿勢をとり、一方の中小企業は、他社以上の報酬を支払うならいざ知らず、現在大きな問題となっている人手不足の実情と相俟って現実に妥協しつつ従業員達に失望されないよう薄氷を踏むが如く方針を打ち出していかねばらないと考えます。
本題に入りますが、企業側が、在宅勤務あるいは遠方で勤務したいと申し出てくる従業員の給与を通勤時代の給与額から減額したいと考えるならば、賃金同一法に抵触しないように注意を払う必要があるのですが、以下に順を追って説明します。
先ず、同一従業員のそれまで得ていた給与額を変えるには第三者もが納得し得る「正当なビジネス上の理由」が必要になります。例として、(1)職務内容変更に伴う昇給/減給、(2)リーダーに就任し同手当を貰っての増額あるいはリーダーを降ろされての減額、(3)就労地域の変更による増額/減額、他に、(4)企業の売り上げ減からの一時減給措置や、(5)政府による最低賃金額の上昇に沿った増額、また(6)FLSA(公正労働基準法)によるカテゴリーの変更による時間給制から月給制に変わる際や、(7)FLSA改定によるExempt従業員のサラリーレベルの最低額が引き上げられた場合等が挙げられます。
もちろん米国には給与の増減を規制する法律がない事から給与を上げる下げるは企業側の勝手なのですが、但し正当な理由のないアクションを行えば、差別や不公平・不平等が理由の訴えを起こされる可能性が生じます。そして上記の如し理由を根拠にすべきと理解されるなら前回触れたように、今より生活費の安い地域に移るに際し給与額を下げるなら高い地域に移る際には増額しなければ一貫性の欠けるところとなり、また、遠方に引っ越すことで遂行できない任務が生まれ、その職務内容の差を理由に減給するならば、会社近くに留まり会社でしか出来ない職務がある時のみ出社する従業員に対しては、それが理由の減給措置は賃金同一法に抵触する可能性が生じます。
(次回に続きます)