企業概況ニュース 掲載 「人事・備忘録」 第十一回 『退職・転職トレンドの終焉 (続き)』

「人事・備忘録」の昨年12月号掲載記事では、2020年の平均昇給率が調査機関によって多少の差はあるものの、過去3年は毎年安定して上昇してきていること。但しこれらの数字はあくまでも昇給率「予算」の平均値であり、全員あるいは全職種が上がっているわけではないこと。それに単純に足していけば3年で13%ほど上がっている計算になるが、人手不足の職種を除いて世間が思うほど給与が上がっているわけではなく、横這いかむしろ下がっている職種すらあること。以上について触れました。

 但しそうは言っても、昨春すなわち2022年2月から4月に出された連続インフレ率9%超と言う数字ならびに、昇給率までもが10%を超え続けたことに誰もが驚き、経営者たちは当時「社員達の給料はどうするのが良いのか…」と狼狽したに違いありません。

 ところで日本から来られたばかりの方は、部下の昇給時期になると必ずやインフレ率を知りたがります。「インフレ率=物価上昇率」を計るには消費者物価指数や企業物価指数がありますが、特別な目的以外は消費者物価指数を用います。そのインフレ率ですが、日本では給与上昇値の最大要素として多くの企業が横並びに採用しており、また春闘の結果を参考にすることも慣例になっています。ところがここアメリカの場合、インフレ率と賃金上昇率の関係性は一切ないとは言わないものの、日本ほどの相関関係にありません。

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 ところでそのインフレ率と賃金上昇率ですが、昨年フォーブス誌上に「昇給率は何故インフレ率に追いつけないのか?」との興味深い記事が掲載されました。その記事曰く、「継続して深刻な人手不足と大退職の影響が出ているにもかかわらず賃金上昇率はインフレ率までに達せていない。両者は一般的に同じ方向に動く傾向にあるものの、全く異なる要素によって計られる。即ち、インフレ率は商品の市場価格の変化を表す一方、賃金上昇率は人口動態・労働参加率・技術の進歩・生産性など労働力の需給の変化によって計られる。例えば、過去最高のインフレの年だった1979年は米国のインフレ率は13.3%だったが賃金上昇率は8.7%とはるかに低かった。逆に2001年の米国のインフレ率は1.9%だったが、2001年と2002年の賃金上昇率は4%近くとかなり高かった。このことから低インフレ年は従業員に有利に働き、高インフレ年は従業員に不利に働く傾向がある。」とのこと。

 以上のことから極度にインフレ率を追う必要はないとも言えます。また、ここ最近のニュースで、全米不動産協会による2022年の中古住宅販売戸数が8年ぶりの低さで2008年以来の低水準だったことや、今月1月に発表された大手IT企業の連なった大型解雇の発表を見ても、余程の酷い労働環境でないならば今後は逆にここ暫く加熱していた昇給速度を冷却に転じさせる時期になるのかもしれません。

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